電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
移動体通信において,水中通信は最後のフロンティアと言われている.ここで,移動を想定した水中通信として,音波を用いた水中音響通信(UWAC)が有力である.しかし,音波の伝搬速度は電波の伝搬速度の20万分の1となる.それゆえ,UWACにおいては,ドップラーシフト広がりと遅延時間広がりが非常に大きくなる二重選択性が発生する.本稿では,UWACの厳しい二重選択性伝搬環境の克服のために,無線伝送方式の性能検証のためのチャネルモデル,差動Orthogonal Frequency Division Multiplexing(OFDM)による無線伝送方式を紹介する.
キーワード:水中音響通信,二重選択性伝搬路,無線伝送方式,チャネルモデル,チャネルシミュレータ
近年,水中通信の実現に関する検討が活発化してきている.水中通信の活用先としては,科学研究,地形計測,資源探索等が挙げられる.更に,水中通信は,Beyond 5Gのカバレージ拡張のターゲットの一つとしても注目が高まりつつある.水中通信の実現に関しては,電波,光,音が候補となるが,ある程度の通信距離を確保し,移動環境を想定すると,音波による水中音響通信(以降,UWACと略)が,ほぼ唯一の候補となる(1)~(3).ここで,音波の伝搬速度は電波の伝搬速度の20万分の1となる.その結果,UWACでは,ドップラーシフト広がりと遅延時間広がりが非常に大きくなり,2.1で述べる二重選択性伝搬環境の影響が大きくなる.
移動体通信は,陸上における電波による移動体通信(以降,陸上移動体通信と略)において,飛躍的な発展を遂げた.ここで,陸上移動体通信用の無線伝送方式のターゲットは,比較的緩やかな二重選択性伝搬環境での高速大容量化である.他方,UWACの無線伝送方式は,陸上移動体通信の数十倍以上厳しい二重選択性を受けることになる.それゆえ,UWACの無線伝送方式においては,厳しい二重選択性伝搬環境への対応が重要課題となる.
本稿では,まず,実計測結果によりUWACの伝搬環境について論じる.次に,実環境を模擬するための一般的なチャネルモデルではなく,無線伝送方式の性能検証のためのチャネルモデルについて紹介する.更に,UWAC用無線伝送方式として広く検討されているコヒーレントOrthogonal Frequency Division Multiplexing(OFDM)(用語)とその課題について述べる.最後に,UWACの二重選択性伝搬環境に有効な差動OFDM,上記チャネルモデルを用いたシミュレーションによる性能検証結果,実浅海環境での実験結果について論じる.
UWACの大きな特徴としては,次の3点が挙げられる.
①伝搬速度である音速が光速の20万分の1となる.
②使用可能な周波数がせいぜい1MHz以下となる.
③伝搬路の環境依存性が高くその一般化が困難である.
続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード