名誉員推薦

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Vol.106 No.7 (2023/7) 目次へ

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名誉員推薦(写真:敬称略)

写真:小川博世

小 川 博 世

推 薦 の 辞

 小川博世君は,1974年に北海道大学工学部電子工学科を卒業後,1976年に同大学院修士課程を修了され,同年日本電信電話公社(現NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.1990年に国際電気通信基礎技術研究所(ATR)主幹研究員,1993年にNTT無線システム研究所グループリーダーを経て,1998年に郵政省通信総合研究所に異動,その後,2005年に情報通信研究機構(NICT)横須賀無線通信研究センター長,2008年に電波産業会次長を歴任され,2015年からはNICT客員研究員として周波数の国際標準において活躍されています.

 同君はNTT,ATR,NICTの各研究所において,長年にわたりマイクロ波からミリ波に至る無線通信システム及び装置の研究開発に取り組まれ,高周波回路技術,光ファイバ無線技術,及び近距離大容量伝送技術などの提案と実証において先駆的役割を果たしました.同君の特筆すべき貢献として,これら技術の国際規格化とテラヘルツ波帯まで広がる周波数の国際標準化における優れた功績が挙げられます.

 高周波回路技術の分野においては,基板の両面を活用した両平面回路技術による全MIC化送受信装置の実用化に貢献し,更に単一平面上で回路機能を高集積化できるユニプレーナ型ミリ波モノリシック集積回路技術を考案し,その後のミリ波無線通信装置の構成に多大な影響を与えています.

 光とマイクロ波・ミリ波の融合領域における光ファイバ無線技術の分野においては,ミリ波信号をホットスポットエリアに分配するための有効な伝送方式としてミリ波サブキャリヤ伝送方式の提案を行い,その有効性を実証されました.また,この分野を議論するためのマイクロ波フォトニクス(MWP)時限研究専門委員会及びMWP国際会議の立ち上げ及び定着化に中核的役割を果たしました.更に,国際電気標準会議及びアジア・太平洋電気通信標準化機関において光ファイバ無線技術の規格を議論するグループを立ち上げ,我が国技術の国際普及に貢献しています.

 ミリ波近距離大容量伝送技術の分野においては,当初から研究成果の世界標準を目指してIEEE802の60GHz規格を議論するためのグループ設置に大いに貢献しました.更にテラヘルツ波帯の移動・固定無線システムへの周波数の開放を目的に世界無線通信会議において,無線通信規則の改定に主導的役割を果たし顕著な功績を挙げられました.一方,国内の電波行政分野においても,60GHz帯規制緩和における技術基準の策定へ先導的な貢献をされています.

 同君はこれらの研究と標準化への功績により,本会論文賞,業績賞,功績賞,及び前島密賞,ITU協会賞功績賞,産業標準化事業表彰経済産業大臣表彰,情報通信技術賞TTC会長表彰などを受賞されました.また,本会並びにIEEEからフェローの称号を授与されています.また,総務省情報通信審議会専門委員として電波行政の面から,本会においては,研究専門委員会委員長を歴任するなど学術面からも,無線通信分野の発展,ひいては本会の発展にも貢献されました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野及び標準化分野における功績は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

区切


写真:黒田徹

黒 田  徹

推 薦 の 辞

 黒田 徹君は,1980年に東京工業大学工学部電気電子工学科を卒業後,1982年に同大学院総合理工学研究科を修了され,同年に日本放送協会に入局されました.1997年に同放送技術研究所主任研究員となり,同年に東京工業大学から工学博士の学位を授与されています.2012年から同放送技術研究所副所長,2014年から2018年には同放送技術研究所所長として活躍されました.

 同君は放送のディジタル化,4K8K化等を長年推進し,放送分野の技術発展に大きく貢献されました.特に,地上テレビジョン放送のディジタル化に関しては,伝送方式の研究開発からディジタル放送の実用化に至るまで中心的な役割を果たし,極めて顕著な業績を挙げられています.

 同君はアナログ放送のチャネル帯域幅と同じ6MHzで,ハイビジョンとワンセグを同時に伝送することが可能な地上デジタルテレビジョン放送方式であるISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)方式を提案しました.特にワンセグは,携帯電話でテレビ放送を受信することができる画期的な方式でした.また,総務省電気通信技術審議会や一般社団法人電波産業会(ARIB)デジタル放送システム開発部会においてISDB-T方式の標準化作業を中心となって推進され,同方式は1999年に日本の地上デジタルテレビジョン放送の標準方式として承認されました.国際的にもITU-Rにおける標準化活動を積極的に推進し,同方式は2000年にITU-Rにおいて世界標準方式の一つとして勧告され,ブラジルをはじめ海外でも広く実用化に至りました.

 同君は,ARIBデジタル放送システム開発部会作業班主任,地上デジタル放送推進協議会(D-pa)運用規定主任を歴任するなど,民放,受信機メーカ等との調整を先頭に立って推進,実用化の中心的な役割を果たしました.その結果,2003年12月に地上デジタルテレビジョン放送開始に至りました.その後も,ARIBデジタル放送システム開発部会委員長を2014年11月まで務めるなど,継続的にディジタル放送に関わる規格策定や改定を行い,地上デジタル放送の普及推進にも貢献されました.同君の貢献は,放送文化の向上はもとより,受信機の普及を通じて産業界にも高く評価されています.また,地上デジタル放送だけでなく,FM多重放送の研究開発及び標準化,衛星放送の4K8K化推進,インターネット活用技術,高度な番組制作技術など放送分野全体の先駆的な研究も主導されました.

 上記の業績に対し,電波産業会電波功績賞電波産業会会長表彰,電気通信協会ICT事業奨励特別賞,発明協会全国発明表彰日本弁理士会会長賞,映像情報メディア学会船井技術革新賞,本会業績賞など数多くの表彰を受けられています.また,同君の主導力と高い専門性は,日本学術会議連携会員,総務省情報通信審議会技術戦略委員会専門委員,国立情報学研究所研究開発連携本部客員教員,映像情報メディア学会副会長等の要職の歴任によっても認識されております.

 以上のように放送分野を中心に情報通信分野に至るまでの技術革新における同君の貢献は極めて顕著であり,本会の名誉員の称号を贈るにふさわしい方であると確信致します.

区切


写真:杉山昭彦

杉 山 昭 彦

推 薦 の 辞

 杉山昭彦君は,1979年に東京都立大学工学部電気工学科を卒業後,1981年に同大学院電気工学専攻修士課程を修了し,日本電気中央研究所に入社しました.以来,伝送装置,パーソナルコンピュータ(PC),携帯電話,パーソナルロボットなどを対象とした信号処理技術の研究開発に従事してきました.1987学術年度にはカナダ・モントリオールのコンコーディア大学で,客員研究員として適応信号処理技術の研究に従事しました.1998年には,それまでの研究成果に対して東京都立大学から博士(工学)の学位を授与されています.2002年からは国内8大学で非常勤講師として講義し,2016年以降は東京都立大学客員教授も兼務しています.2019年からは,Yahoo! JAPAN研究所で信号処理の研究に従事しています.

 同君が開発した可変ブロック長適応変換符号化は,特許3件がMPEG-4必須特許に認定されて,オーディオプレーヤ,携帯電話,PC,テレビ,カーナビゲーションシステム,Webサービス等様々な製品に世界中で現在も利用されています.同君が1994年に世界初の完全半導体オーディオプレーヤとして開発したシリコンオーディオは,2001年に発売されたiPodの先駆けです.また,1989年から2008年にはISO/IEC JTC1/SC29 WG11(通称MPEG)に日本代表団の一員として参加し,同君が中心となって執筆したMPEG-1/MPEG-2/MPEG-4のオーディオパートに対応した日本工業規格4編と,12冊の書籍に含まれるオーディオ符号化の章は,MPEGオーディオの日本語解説として,標準の普及に貢献しました.

 更に,同君が2001年に開発した,重み付雑音推定を用いた高音質ノイズサプレッサは,3GPP公式認証を取得した世界初の製品として,累積3,000万台超の携帯電話やボイスレコーダに搭載され,快適な通話に貢献しました.また,音声ひずみと残留雑音をユーザが制御する機能は,MPEG-4 SAOC(空間音響オブジェクト符号化)に採用されています.一方,苛酷な雑音環境のために開発したノイズキャンセラは,2005年の愛知万博におけるチャイルドケアロボットに搭載されて半年間のデモを完遂し,展示会環境での音声認識実用性を世界で初めて実証しました.

 同君は,部下後輩に加えて世界各国からのインターン学生75人を指導し,世界31か国87都市にて174件の招待講演を行いました.更に,学生や初級技術者が効率的に論文を執筆できるように,3点分析とスライドファーストに基づく独自の論文執筆法を開発して普及させ,信号処理技術を超えて教育にも貢献しました.

 本会では,基礎・境界ソサイエティ事業担当幹事,フェロー推薦委員会委員,信号処理研究専門委員会委員長を,IEEEでは,Fellow Committee Member,SPS Conference Board Secretary,同Awards Board Member,同Audio and Acoustic Signal Processing Technical Committee Chair,同Japan Chapter Chairなどを歴任しました.

 以上の業績に対して,本会からフェロー,功績賞,業績賞2回,教育優秀賞,論文賞を,ほかに文部科学大臣表彰,市村産業賞,関東地方発明表彰,電気科学技術奨励賞3回,IEEE Fellow,同Distinguished Lecturer 2回,同Distinguished Industry Speakerなどを授与されました.

 以上述べたように,同君の電子情報通信工学分野における貢献は極めて顕著であり,本会名誉員として推薦します.

区切


写真:松 島 裕 一

松島裕一

推 薦 の 辞

 松島裕一君は,1978年に早稲田大学大学院理工学研究科博士課程を修了し工学博士の学位を授与され,同年,国際電信電話株式会社(現KDDI)に入社されました.1998年に(株)KDD研究所取締役,2001年には(株)KDDI研究所代表取締役副所長に就任されました.更に,2003年に独立行政法人通信総合研究所(CRL)に移籍され,情報通信部門長,2006年には改組された独立行政法人情報通信研究機構(NICT)の理事に就任されました.その後2010年から2019年までは早稲田大学研究戦略センター教授及び同大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構長として御活躍なされました.

 同君は光通信システム分野において,先駆的な半導体光デバイスの研究開発,更には次世代光通信技術への挑戦を続けてきており,本分野の発展に多大な貢献をなされました.KDD研究所においては,化合物半導体をベースとした新たな受光素子,半導体レーザ,光変調器等に関する先駆的研究開発を推進し,当時はれい明期にあった大洋横断光海底ケーブルシステムへの適用を世界に先駆けて実現しました.これらは国際間大容量光海底ケーブルシステムには不可欠なデバイスとして実用化され,増大する国際間通信インフラの構築に多大な貢献をなされました.ここに至るには,ひずみ量子井戸の導入によるデバイスの高性能化,更には高信頼度化など実用化へ向けた数々の難関を乗り越えてきたものであり,その研究実績・学術貢献は高く評価されています.

 NICT移籍後は,情報通信技術全般のリーダーとして,光ネットワーク,ヒューマンインタフェース,情報セキュリティなど多岐にわたる分野をけん引して,国レベルでの情報通信技術のプレゼンスの向上に尽力されてきました.特に,光通信分野では「光ルータの先駆的研究」,マルチコアファイバに代表される「空間多重方式(SDM)」の重要性を指摘し,その実現に向けて果敢に挑戦されました.このSDM方式に関しては,幅広い産官学のメンバーが結集した研究会を主宰し,国のプロジェクトをも立ち上げてこの分野の活性化に尽力されました.この流れは,やがて本会の特別研究専門委員会(EXAT)に引き継がれ,これまで複数の国際会議を主催するなど,現在我が国が世界のトップを走る研究開発分野にまでけん引されてきました.

 学会活動としては,本会では複数の研究専門委員会,例えば「マイクロ波・ミリ波フォトニクス研究専門委員会(MWP)」,「光通信インフラの飛躍的な高度化に関する特別研究専門委員会(EXAT)」の委員/委員長を務められ,新たな研究分野の発展に寄与するとともに,2019年には本会の副会長に就任され,その運営,活性化に大きく貢献されました.また,IEEE東京支部理事/セクレタリーの要職を歴任,更にIPRMなど多くの国際会議組織委員長を歴任され,国際的な学会活動にも貢献されました.

 同君は上記の業績に対して,科学技術庁長官賞,IEE Electronics Letter Premium Award,櫻井健二郎氏記念賞,IPRM Award,及び本会業績賞,本会功績賞などを受賞されたほか,本会,IEEE,応用物理学会からフェローの称号を授与されております.

 以上のように,同君の産官学での幅広い電子情報通信分野の学術研究並びに活性化に尽くした功績,更には本会運営への長年にわたる貢献は誠に顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

区切


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