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接近するバーチャルとリアル――メタバース・ディジタルツインの現在と未来――
小特集 5.
メタバースの教育現場への利活用
Virtual Utilization of the Metaverse in Education
Abstract
高性能で廉価なVRデバイスの登場やオンライン化の浸透により,大学教育をはじめとする様々な学習場面や訓練の場面でメタバースの活用が進んでいる.メタバースを利用した教育は,単なる対面の代替ではなく,メタバースの持つ同期形メディアとしての性質を考慮し,アバタの自己投射性,メタバースの空間性,メタバースの体験メディアの側面を活用した設計と実践がなされるべきである.本稿では,筆者がこれまで取り組んできたメタバースやVR技術を用いた実験的活動や教育への応用事例を紹介しながら,教育現場への利活用の可能性について概説する.
キーワード:メタバース,アバタ,バーチャルリアリティ(VR),身体性
COVID-19感染拡大に伴い,生活の中にオンライン化やリモート化が根付き,教育の現場にも大きな影響を与えた.視聴覚の情報共有の面では遠隔Web会議システムが大きな役割を果たした(1).一方で,空間性や身体性が欠如したことで,十分なコミュニケーションが取れない問題が指摘され,VR(用語)技術を根幹に置くメタバースに期待が寄せられている.2022年7月には東京大学がメタバース工学部の設立を発表し,同年9月には開講式がメタバースプラットホーム上で開催された.このメタバース工学部は社会人や中高生など幅広い年代を対象とした教育プログラムの総称であるが,実際にそういった学部ができたのかと話題を集めた.ほかにも,角川ドワンゴ学園N高等学校やS高等学校はVR空間の教室で学習や交流を行っている(2).米国Stanford Universityでは2021年からVR教育プラットホーム「Engage」内で講義が実施され,香港科学技術大学ではHubsをベースとしたメタバースのキャンパス「MetaHKUST」が2022年に立ち上げられた.また,学術機関だけでなくソーシャルVRの有志が運営するコミュニティでも勉強会や学術講演会が定期的に実施されている.
元々「メタバース」はSF小説「Snow Crash」の中で誕生した造語である.それが科学技術用語へと昇華したものの,現時点で合意の取れた定義が定まっていない(3).作者のNeal StephensonはメタバースとVRの思想は元々同じ起源であると暗に述べているが,技術の進展や周辺分野からの盛り上がりは用語「メタバース」の輪郭を曖昧にしている.本稿では,メタバースを「多人数が同時にオンラインで社会的活動(用語)が可能な3Dバーチャル空間」とする定義を支持し,ソーシャルVRや大規模オンラインゲーム,物理世界の拡張などを含む対象を扱う.物理世界の拡張にはVRだけでなくAR(拡張現実)やMR(複合現実)などの技術も関わり,メタバースはサイバー世界だけにとどまらない.
メタバースは教育訓練との相性が良い.教育現場にメタバースを活用することで,物理世界では不可能だったり,費用的に難しかったりするコンテンツも利用可能となる.また,様々な事情で学習の機会が制限されている学生に対して,メタバースは新しい学びの場を提供できる.本稿では,筆者がこれまで取り組んできたメタバースやVR技術を用いた実験的活動や教育現場への応用事例を紹介し,メタバース活用の効果と課題を述べる.
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