小特集 3. 通信障害と報道

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通信障害と社会

小特集 3.

通信障害と報道

Network Outages and Public Information

堀越 功

堀越 功 (株)日経BP

Isao HORIKOSHI, Nonmember (Nikkei Business Publications, Inc., Tokyo, 105-8308 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.1 pp.38-42 2024年1月

©2024電子情報通信学会

Abstract

 昨今,通信障害が大規模・長時間化する傾向にあり,大きな社会的インパクトを引き起こしている.発端は些細であってもドミノ倒しのように影響が波及し,収束できなくなるケースが多い.通信事業者の分かりづらい表現や用語を使った情報発信によって,利用者や報道機関に混乱を招いた事態も散見される.こうした事態を受けて総務省は,事前規制を強化する新たなルールを策定した.通信障害を絶対に起こさないのではなく,起きたとしても影響を最小化するアプローチが求められる.

キーワード:リスク評価,半故障,説明責任,事前規制,ステートレス

1.は じ め に

 近年,通信障害が社会問題化している.KDDIが2022年7月に起こした大規模通信障害は,障害発生から復旧まで60時間超を要し,物流や自動車,行政,金融・決済など多岐にわたる分野に影響を及ぼすなど,大きな社会的インパクトを引き起こした.

 昨今の通信障害は大規模化・長時間化する傾向にある.2022年度の電気通信事業法関係法令上の「重大な事故(注1)」は,前述のKDDIのほか,NTT西日本や楽天モバイル,NTTドコモなど10件発生している.2021年度の7件から3件増加した.

 筆者は2004年から,日経BPが発行する通信専門誌「日経コミュニケーション」(2017年休刊)や日本経済新聞社企業報道部(現ビジネス報道ユニット)などで,技術と経営の視点から通信分野の記事執筆を続けてきた.社会問題化する通信障害についても,技術的な側面に加えて,利用者の視点からも問題点を指摘してきた.また2022年夏以降は,総務省の「電気通信事故検証会議」(以下,事故検証会議)や「電気通信事故検証会議 周知広報・連絡体制ワーキンググループ」(以下,周知広報WG),「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」(以下,ローミング検討会),「IPネットワーク設備委員会技術検討作業班」などの有識者会議に構成員として参加し,頻発する通信障害に対応した新たな制度整備に関わっている.本稿では昨今の通信障害の傾向や,それに対する総務省の新たな対策を概括する.更に通信障害と報道の在り方や,通信障害の影響を最小化する新たなアプローチについても触れる.

 なお筆者が構成員として参加する総務省の事故検証会議は,通信事業者の経営上の機密情報やネットワーク構成など機微な情報を取り扱う.構成員は同会議で知り得た非公開情報に基づく活動を禁じられている.本稿は,あくまで公開情報に基づく範囲の記述であり,筆者個人の意見である点を最初に断っておく.

2.昨今の通信障害の傾向

 なぜここに来て,大規模な通信障害が頻発しているのか.例えばKDDIが2022年7月に起こした通信障害は,延べ3,000万人以上,合計60時間超に影響が及んだ.この障害の発生原因については,事故検証会議が2022年10月に公表したKDDIの通信障害についての報告書(1)に詳しい.未曽有の通信障害を引き起こした原因は,メンテナンス作業中の些細な設定ミスが発端だった.


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