解説 人文科学・社会科学におけるデータサイエンス[Ⅰ]――人文科学データの世界――

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 解説 

人文科学・社会科学におけるデータサイエンス[Ⅰ]

――人文科学データの世界――

Data Sciences in Humanities and Social Sciences[Ⅰ]: The World of Humanity Data

塚常健太

塚常健太 正員 岡山理科大学経営学部経営学科

Kenta TSUKATSUNE, Member (Faculty of Management, Okayama University of Science, Okayama-shi, 700-0005 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.1 pp.43-47 2024年1月

©2024電子情報通信学会


目    次

[Ⅰ]人文科学データの世界(1月号)

[Ⅱ・完]社会科学データの世界(2月号)

A bstract

 人文科学・社会科学におけるデータサイエンスでは,人間や社会をより深く理解するための研究が進められている.本稿では,人文科学と社会科学の各分野で使われているデータサイエンスの技術・方法を解説する.前編では,人文・社会科学のデータサイエンスの概要を述べた後,人文科学に属する個別の分野ごとの動向を解説する.人文情報学や文化進化学といった,分野横断的な潮流についても紹介する.

キーワード:人文情報学,文化進化学,メタ倫理学,ハイブリッドエスノグラフィー,オープンサイエンス

1.は じ め に

 今回は非常に広大な領域について,解説の御依頼を頂いた.筆者の能力と知識の範囲ではあるが,前編と後編の2回に分けて,人文・社会科学領域のデータサイエンスの動向を概観する.筆者は学部時代に歴史学の研究室に所属し,その後は社会学,情報科学,経営学の各専攻に携わってきた.その過程で,異分野間に横たわる問題を考察する機会が多々あった.各分野の専門の方にとっては不十分に感じられる点もあると思われるが,近年の動向を知れる文献の(まさにほんの)一部を引用しながら解説する.著者の方々も幅広い文理融合的な研究に取り組まれているので,読者の皆様も是非各文献に当たってみて頂きたい.なお,重要であるが膨大な誌幅を要するため,本稿ではあえて詳しく扱わない決断をした分野や話題もある.例えば,p値・有意水準と再現性をめぐる議論(1),ベイズ統計学・統計モデリングと伝統的な統計学との関係(2),(3),社会物理学や心理物理学の動向(4),(5)などである.

 最初に,人文・社会科学のデータサイエンスにおける歴史的な流れを簡単に述べる.データサイエンス全体の歴史をコンパクトにまとめて説明している文献(6)(8)も適宜参照されたい.人文・社会科学と一言でいっても,研究方法も,データの収集方法も,そもそもデータとして何を対象とするかにも多様性がある(9)(11).数量化しやすい対象を扱う分野ではディジタル技術や統計分析の導入が進んでおり,定性的な方法が中心の分野では今まさに取組みが進み始めている.定量的な研究の栄枯盛衰もあり,情報科学における数度のAI(人工知能)ブームと似た変遷が見られる.第二次世界大戦後,各分野で「科学化」(物理学や経済学に象徴される,数量化と一般法則の導出)が追求された時期があり,地理学の計量革命(12),(13),政治学の行動科学革命(14),(15),数量的な社会ネットワーク分析の興隆(16)などが生じた.その後,ラディカリズム(過去の制度や価値体系を批判的に見直し,根本的な変革を追求する運動)やポストモダン思想などの潮流を受けた反省的な議論も盛り上がりを見せた一方で,統計的手法やコンピュータの発達,そして今日の多種多様なディジタル技術の導入とデータサイエンスブームという,大きな流れが確認できる.


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