解説 地上放送の高度化を目指した伝送方式

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 解説 

地上放送の高度化を目指した伝送方式

The Transmission Systems for Advanced Terrestrial Broadcasting

宮坂宏明 岡野正寛 高林 徹 柴田 豊

宮坂宏明 日本放送協会放送技術研究所

岡野正寛 日本放送協会放送技術研究所

高林 徹 (株)TBSテレビメディアテクノロジー局

柴田 豊 (株)TBSテレビメディアテクノロジー局

Hiroaki MIYASAKA, Masahiro OKANO, Nonmembers (Science & Technology Research Laboratories, Japan Broadcasting Corporation, Tokyo, 157-8510 Japan), Toru TAKABAYASHI, and Yutaka SHIBATA, Nonmembers (Division of Media Technology, Tokyo Broadcasting System Television, Inc., Tokyo, 107-8006 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.1 pp.48-54 2024年1月

©2024電子情報通信学会

A bstract

 地上デジタルテレビジョン放送は放送開始から20年が経過し,現在,次世代地上放送の実現に向けた研究開発が進められている.総務省では技術試験事務等を通じて,地上波で4K8K等の超高精細度コンテンツを放送するための伝送方式について検討が進められ,2023年7月に情報通信審議会から二つの伝送方式について技術的条件が答申された.二つの伝送方式は導入シナリオが異なり,一つ目は新たなチャネルを確保した上で新しい放送サービスを提供する方式(地上放送高度化方式),二つ目は現行放送と同一のチャネルで新しい放送サービスを提供する方式(高度化放送導入方式)である.これら2方式の概要について解説する.

キーワード:地上放送高度化方式,高度化放送導入方式,LDM方式,ISDB-T

1.は じ め に

 我が国の地上デジタルテレビジョン放送の伝送方式(ISDB-T: Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)(1)は,1999年5月に電気通信技術審議会から放送方式に係る技術的条件が答申され,2001年5月にARIB(一般社団法人電波産業会)標準規格が策定された.2003年12月に2Kの高精細度コンテンツによる放送が開始され,今年(2023年)で20年となる.その間,第2世代の地上放送方式として欧州ではDVB-T2(2),米国ではATSC3.0(3)が規格化され,既に実用化されている.我が国においても次世代方式に向けての検討が進められており,総務省では2019年度からの4か年で「放送用周波数を有効活用する技術方策に関する調査検討(技術試験事務)」を実施し,地上波で4K8K等の超高精細度コンテンツを放送するため,三つの伝送方式に係る技術的条件について検討を進めてきた(4).一つ目は,放送用に割り当てられている周波数帯の空きチャネルで4K8K放送を実現する地上放送高度化方式である.我が国では周波数がひっ迫しており,空きチャネルを見いだし,新たな放送サービスを開始するためには,現行放送のチャネル割当の一部を再編する必要があると考えられる.二つ目と三つ目は,現行放送と同一のチャネルで新しい放送サービスを提供する高度化放送導入方式で,3階層セグメント分割方式と,LDM(Layered Division Multiplexing)方式である.高度化放送導入方式は,新たなチャネルの確保が不要であるが,移行期においては,一つのチャネルを現行放送と共用するため,現行放送の伝送容量を減らす必要があり,また4K放送へ割り当てられる伝送容量は,地上放送高度化方式よりも少ない.なお,既存受信機への影響から3階層セグメント分割方式の技術的条件は最終的に示されなかった.技術的条件が示された二つの方式は新たなチャネル確保の要否など導入シナリオが異なるため並行して検討が進められてきた.NHKとTBSテレビは,上記の技術試験事務を受託した一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)から調査検討業務を請け負い,NHKは地上放送高度化方式,TBSテレビは高度化放送導入方式(LDM方式)について検討を行った.本稿では,2方式の概要について解説する.


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