解説 看護理工学アプローチによるケア機器開発

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 解説 

看護理工学アプローチによるケア機器開発

Development of Care Device Using the Nursing Science and Engineering Approach

雨宮 歩 松村 彩

雨宮 歩 千葉大学大学院看護学研究院健康増進看護学

松村 彩 千葉大学大学院看護学研究科健康増進看護学

Ayumi AMEMIYA and Aya MATSUMURA, Nonmembers (Graduate School of Nursing, Chiba University, Chiba-shi, 260-8672 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.1 pp.55-59 2024年1月

©2024電子情報通信学会

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 人手に頼っていた看護学が工学,理学及びその周辺領域と協調することで,医学とは異なる視点で患者のケアに貢献する新技術の創成を行う,看護理工学が近年注目されている.筆者は自身の臨床経験から,特に患者に身体的・精神的な苦痛を与え,看護師にも多大なストレスとなる,臨床で大きな課題となっている患者への身体拘束に対して,患者,看護師いずれの負担も減らすケア機器を看護理工学アプローチを用いて開発している.本稿では,そのケア機器開発の過程と必要性を示し,臨床における実態調査の内容も含めた現状を論じる.

キーワード:認知機能低下,身体拘束,介護,予防,学際研究

1.看護現場の臨床課題・ニーズ

1.1 臨床課題・ニーズの認識

 身体拘束は医療保険適用病床の9割以上で行われており(1),患者の精神的苦痛だけでなく,関節拘縮・褥瘡(じょくそう;床ずれ)・心肺機能低下を引き起こし(2),時には死につながることもある(3).医療者は患者の基本的人権を侵害すると理解しながら「患者の生命と安全を守るため」「人員不足のため」身体拘束を実施せざるを得ない場合がある(4).患者が身体拘束をされている姿を見る家族や関わる看護・介護者は後悔や罪悪感を抱くほか,看護・介護者のモチベーション低下を招くなど精神的・社会的にもダメージを及ぼす(5).これに対し,2000年にスタートした介護保険制度や認知症ケア加算などの診療報酬改定等により,現場では「身体拘束ゼロ」の実現に向け,取り組む必要が出てきている.厚生労働省も「全員の強い意志で『チャレンジ』を」というスローガンを掲げている(6).しかしながら,意思だけでは難しいということは,そこから20数年たってもいまだに身体拘束がなくならないことからも明らかである.

 筆者自身看護師として勤務していた中で,多くの看護師同様に「身体拘束をしたくないが,しなければならない」というジレンマを持っていた.しかし,自身で何とかできるとは思っておらず,具体的な行動には移せていなかった.その後,大学院に進学し,「ないなら創る」という理念の真田弘美教授の研究を間近で学ばせて頂き,看護理工学の中で様々なセンサに触れる中で,臨床で感じていたジレンマを思い出した.筆者が臨床を離れてそのとき既に7~8年経過していたが,臨床の状況はほぼ変わっていないことに驚き,様々なセンサに触れる中で,ケア機器を開発し身体拘束を減らしたいと考えた.

1.2 臨床課題・ニーズの分析

 身体拘束は主に,①転倒・転落防止,②医療用カテーテル等の自己抜去防止のために実施されている(1).転倒・転落防止のためには様々な離床検知システムが開発・研究されている(7)が,もう一つの要因である医療用カテーテル等の自己抜去を防止するためのシステムはない.抜去されたことを早期に発見できるシステムは幾つかあるが,抜去後の発見では遅く,抜去前に見つけなければ身体拘束を減らすことにはつながらない.よって,医療用カテーテル等を自己抜去前に検知したい,というニーズが明確になった.そのために,自己抜去前に検知するシステムを作製しようと考えた.「ないなら創る」である.


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