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◆今月のニュース解説
二次元強磁性構造の電子の波動関数操作によりピコ秒以下の超高速で磁化を制御――テラヘルツ周波数帯で動作する低消費電力スピンデバイスに向けて新機能を実証――
Ultrafast Subpicosecond Magnetization by Controlling Electron Wavefunction in a 2D Ferromagnet towards Realization of Low-power-consumption and THz Spin Devices
――テラヘルツ周波数帯で動作する低消費電力スピンデバイスに向けて新機能を実証――
強磁性材料がもつ「不揮発性」「再構成可能」という特長と機能を「高速度演算」を担う半導体集積回路に融合することにより,高速かつ低消費電力で動作するスピン機能半導体デバイスを実現することが期待されている.このようなスピンデバイスの出力は強磁性体の磁化(スピン)の向きで制御されるが,磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)を代表とする最も研究が進み実用化されているスピンデバイスでは,磁化反転は速くても数ナノ秒(ns)程度であり,従来の半導体トランジスタ(MOSFET)より一桁程度も遅い.また,磁化を反転させ書込みを行うために電流駆動による磁化制御法が用いられているが,106~107A/cm2という極めて高い電流密度を必要とするため,大量の電力を消費する.将来のスピンデバイスでは,これらの問題を解決し高速かつ低消費電力で磁化を制御する方法を確立する必要がある.
東京大学と理化学研究所の研究グループは,Feを添加したⅢ-V族強磁性半導体(In,Fe)Asを含む(In,Fe)As/InAs半導体量子井戸構造を用いて,30フェムト秒(fs)のパルスレーザ光を照射し,強磁性半導体を含む量子井戸の磁化を600fsという極めて短い時間で増大させることに成功した(図1(a),(b)).研究グループが用いた(In,Fe)Asは半導体と強磁性体両方の特長を併せもつ世界初のn形Ⅲ-V族強磁性半導体であり,電子キャリヤの高いコヒーレンス性をもつため種々の量子効果が期待できるユニークな強磁性材料である.赤外波長(793nm)の超短パルスレーザ光をポンプ光として試料へ照射し,Fe原子特有の内殻準位間の遷移(M吸収端,52eV)に共鳴するエネルギーをもつX線自由電子レーザ(XFEL)をプローブ光として用いて量子井戸内のFe原子の磁気モーメントの総和である磁化の時間変化をカー効果によって観測するという,ポンプアンドプローブ法を用いた.同研究グループの実験結果及び理論計算の解析によると,fsパルスレーザ光で生成されたキャリヤ(電子と正孔)は強磁性半導体層内のFeの磁気モーメントと直接には相互作用しない.しかし,それらの空間電荷で作られるポテンシャルの速い変化により量子井戸内に閉じ込められた二次元電子の波動関数及びそれに従う電子密度分布が非常に速く変化した結果,Fe磁気モーメント同士の磁気的相互作用が超高速で増強され,磁化が増大することを明らかにした(図1(c)).
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