特集 3-1 大容量車載ネットワーク技術の研究開発と今後の展望

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枠

3. 通信技術

特集

     3-1

大容量車載ネットワーク技術の研究開発と今後の展望

Research and Development of High-capacity In-vehicle Network Technologies and Its Future Direction

菅野敦史

区切り

菅野敦史 正員 名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻

Atsushi KANNO, Member (Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology, Nagoya-shi, 466-8555 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.11 pp.1021-1028 2024年11月

©2024 電子情報通信学会

abstract

 車載通信は運転支援,自動運転技術の実現になくてはならないキー技術である.しかしながら,温度や振動,製品寿命の観点で非常に過酷な動作条件であり,低価格化と省消費電力要求もあいまって,技術開発そのものが非常にチャレンジングな領域である.加えて,運転支援・自動運転の高度化により要求されるネットワーク容量が増加の一歩をたどり,革新的な技術開発が必要となってきた.本稿では物理層技術に焦点を当て,将来大容量車載ネットワーク技術の課題を俯瞰する.

キーワード:車載ネットワーク,高速光ファイバ通信,車載イーサネット

1.は じ め に

 今後の少子高齢化,労働人口の減少を鑑みると旅客及び貨物を輸送する車両運転・運行の自動化は喫緊の課題である.電子技術の急速な進展とセンサ技術の高度化により,信号処理による周辺環境把握とその予測が実現可能になりつつある.加えて,自動車そのものもハンドルやブレーキ機能が従来のギア及び油圧による直接操作から電子制御によるバイワイヤに置き換わりつつあり,電子制御による運転への介入も容易になってきた.そのため,カメラやレーダで取得した情報を高速処理し自動で車線中央での運転を維持するレーンキープ機能など高度な先進運転支援システム(ADAS: Advanced Driver-Assistance System)が普通乗用車に実装され,自動運転レベル3機能が実現されている(1).地域限定での自動運転であるレベル4の運用についても,国内での実証試験にとどまらず米国ではAlphabet社傘下のWaymo社による自動運転タクシーが終日サービスされている.モバイル通信・無線通信の高度化により,車両情報のクラウドへのアップロード・ダウンロードが高速化・低遅延化され,サーバサイドにおける車両周辺状況のリアルタイム更新も実現できるようになってきた.その車両情報は,車載有線通信・ネットワークを介して車両センサから電子制御装置(ECU)へ収容する.また,ECUからアクチュエータを制御することで,外部からの運転介入が可能となる.車載ネットワークは,制御以外に,車内での映像・音楽などのエンターテインメントやナビゲーション画面・リアカメラ画面などを運転者や同乗者へ提供するためのインフォテインメント用通信システムとしても利用されている.このように,車載通信・ネットワーク技術はいまや車両運行に欠かすことのできない技術である.

 従来の車載通信では,数Mbit/s程度の制御系と100Mbit/s程度のインフォテインメント系に大別され,それぞれ別の通信規格・方式が採用されていた.点火タイミング調整やブレーキ圧調整等,エンジン,ブレーキに関わる自動車動作の重要機能については,10~100µs程度の応答速度で十分であり,必要データ量も多くないことから通信速度の高速化よりも高信頼化に重点が置かれた開発がされてきた.しかしADASが高度化されるにつれ,カメラの高画素化,設置台数の爆発的増加により,車載通信の大容量化も必要となってきただけでなく,配線数増大による重量増も問題となってきた.そのため,ネットワーク構成と通信技術の革新が同時に引き起こされ,車載通信・ネットワーク技術そのものが転換期を迎えているだけでなく,車外通信との協調やサイバーセキュリティ対応など様々な要求がなされるようになってきた(図1)(1)

図1 車載される通信・ネットワーク技術と課題概観(1)

 本稿では,高度ADASと将来の完全自動運転を実現するための車載通信技術の主に物理層技術について概説し,その構成や現状技術について俯瞰するとともに,光ハーネス化に関する最新研究開発動向について議論する.


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