特集 4-1 車載MEMSの最前線

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Vol.107 No.11 (2024/11) 目次へ

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4. センサ技術

特集

     4-1

車載MEMSの最前線

State-of-the-art MEMS for Automotive

田中秀治

区切り

田中秀治 東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻

Shuji TANAKA, Nonmember (Graduate School of Engineering, Tohoku University, Sendai-shi, 980-8579 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.11 pp.1036-1041 2024年11月

©2024 電子情報通信学会

abstract

 MEMSの最初の大きな産業応用は,自動車のエアバックセンシングだった.それから,MEMSはアンチロックブレーキ制御,ロールオーバ制御,スピン防止,エンジン制御,ナビゲーション,ヘッドライト制御などと自動車に欠かせないものになっている.昨今,ADASと自動運転が重要になり,超高性能ジャイロやMEMSライダも求められるようになった.更にヘッドアップディスプレイ,スマートヘッドライト,ドライバ監視などにもMEMSの応用が広がる可能性がある.当然,これらは既存の自動車だけではなく,新しいモビリティにも使われていく.

キーワード:加速度センサ,ジャイロ,ライダ,マイクロミラーデバイス

1.は じ め に

 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の最初の大きな産業応用は,自動車のエアバックセンサであった.これは衝突を検知する加速度センサの一種である.その後,MEMS加速度センサはアンチロックブレーキ制御,ロールオーバ制御,ナビゲーション,ヘッドライト制御,タイヤの振動計測などにも使われ,現代の自動車に欠かせないものとなっている.これと合わせてMEMSジャイロも自動車に使われており,スピン防止やナビゲーションにも役立っている.

 今後,ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)が進化し,より高度な自動運転が実用化するには,MEMSセンサにも高性能化が求められる.特にジャイロとライダ(LiDAR, Light Detection and Ranging)については,性能またはコストパフォーマンスが自動車メーカの要求に必ずしも追いついていない.本稿では,これら二つのMEMSセンサを取り上げて,最前線を解説する.また,MEMSライダに用いられるマイクロミラーデバイスの他の車載応用として,HUD(Head-up Display)とスマートヘッドライトにも言及する.

2.MEMSジャイロ

2.1 高性能化の方法

 ジャイロはローエンドからハイエンドまで性能と価格に数桁にわたる幅を持つ.図1において左側がローエンド,右側がハイエンドであり,前者はMEMSジャイロ,後者はHRG(Hemispherical Resonator Gyro)やESG(Electrically-Suspended Gyro)である(1).ジャイロの性能は代表的にはバイアス安定性とARW(Angle Randum Walk)によって表され,これらが小さい程,小さな角速度を検出できる.

図1 ジャイロの種類と性能  左側がローエンド,右側がハイエンドであり,前者はMEMSジャイロ,後者はHRGやESGである.性能はバイアス安定性によって大まかに示した.

 車載用MEMSジャイロのバイアス安定性は典型的には1°/hといったところであるが,自動運転には更に1桁以上の向上が必要だとされている.これは,自動車の位置の把握にはGPS信号が用いられるが,これが高層ビル群やトンネルで途絶える事態が想定され,その際,慣性航行が必要になるためである.


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