特集 5-2 超スマート社会に向けたダイヤモンド半導体研究開発の最新動向と将来展望

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枠

5. 電子デバイス技術

特集

     5-2

超スマート社会に向けたダイヤモンド半導体研究開発の最新動向と将来展望

Recent Trends and Future Prospects of Diamond Semiconductor R&D for a Super-smart Society

平山 伸 嘉数 誠

区切り

平山 伸 佐賀大学リージョナル・イノベーションセンター

嘉数 誠 佐賀大学理工学部電子デバイス工学コース

Shin HIRAYAMA, Nonmember (Regional Innovation Center, Saga University, Saga-shi, 840-0027 Japan) and Makoto KASU, Nonmember (Faculty of Science and Engineering, Saga University, Saga-shi, 840-0027 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.11 pp.1056-1062 2024年11月

©2024 電子情報通信学会

abstract

 佐賀大学では,究極の半導体と呼ばれているダイヤモンド半導体の研究を推進している.これまでダイヤモンド半導体デバイスは動作していたものの,出力電流値が低く,すぐに劣化してしまうため,究極の半導体と言われてきたにもかかわらず,実用化は容易ではないとされてきた.佐賀大学はデバイス寿命の短い原因が,ドーピング層中の酸素とキャリヤ走行層中の水素の化学反応によることを世界で初めて突き止め,この成果を基にドーピング層とキャリヤ走行層を空間的に分離した新動作原理を考案し,ダイヤモンド半導体デバイスを作製した.本稿では,超スマート社会に向けたダイヤモンド半導体研究の最新動向,及び将来展望について概説する.

キーワード:ダイヤモンド半導体,ダイヤモンドウェーハ,宇宙通信,Beyond 5G

1.半導体業界におけるダイヤモンド半導体の位置付け

 5GやBeyond 5G等の通信の大容量化に伴い,半導体電子デバイスの高周波数化と高出力化が求められている.携帯端末であれば周波数・出力は1.5GHz・1W程度で対応可能であるが,通信衛星やテレビの放送地上局等の大規模施設では10GHz・1kWレベル以上,Beyond 5Gでは100GHz・100Wレベル以上の高周波・高出力化が必要になってくる.しかし,これらの周波数帯域では,対応できる半導体電子デバイスがなく,エネルギー効率の損失が大きい大形の真空管がいまだに用いられている(図1).

図1 Beyond 5Gに向けた半導体の高周波化・高出力化の必要性(出典:嘉数,NTT Technical Journal, vol.8. no.8(2010))

 更に,近年では東日本大震災や能登半島地震の発生を背景として,大規模災害時の電力供給能力向上の必要性から50Hzと60Hzの異なる周波数間の連系容量の増強が喫緊かつ大きな課題となってきている.これらに必須となっているのがサイリスタバルブ(交直変換装置)であり,我が国ではFC(Frequency Converter)設備においては光直接点弧サイリスタを使用した空気絶縁純水冷却方式が採用されている(1).その仕様としては,1極当りの定格容量450MW,定格直流電圧200kV,定格直流電流2,250Aと膨大な電力容量の制御には数十m規模の大規模装置が必要で,その小形化の潜在需要も非常に大きい(図2).そのため,ダイヤモンド半導体が実現できれば,その高い熱伝導性や大容量の制御の可能性から,従来の大規模熱交換器が不要になる等,大規模容量の電力を小形,かつ省エネな装置で制御できることが大いに期待され,我が国の電力安定供給体制の構築に貢献できる.


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