特集 6. 走行中給電が実現する脱炭素社会

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特集

     6.

走行中給電が実現する脱炭素社会

Dynamic Wireless Charging Realizes Decarbonized World

清水 修 藤本博志

区切り

清水 修 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻

藤本博志 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻

Osamu SHIMIZU and Hiroshi FUJIMOTO, Nonmembers (Graduate School of Frontier Science, The University of Tokyo, Kashiwa-shi, 277-8561 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.11 pp.1063-1068 2024年11月

©2024 電子情報通信学会

abstract

 脱炭素社会を実現するために電気自動車の普及が進んでいる.しかし電気自動車の大量普及には課題があり,その解決のため走行中給電の研究が進められている.本稿では既に製品化されている停車中給電とこれから社会実装が進む走行中給電の相違をまとめ,そこから生じる技術的な課題と求められる社会的な変革について述べる.そしてそれらの課題解決の一例として2023年10月から千葉県柏市で開始された日本初となる公道実証実験を紹介し,期待される走行中給電による脱炭素社会について述べる.

キーワード:走行中給電,電気自動車,実証実験,電気土木工学

1.電気自動車大量普及時代を見据えて

 社会を持続可能にするために走行時に温室効果ガスを排出しない電気自動車(EV: Electric Vehicle)の普及が求められている.一方でEVの課題として,電池製造の際に排出される温室効果ガス(GHG: Green House Gas)排出量や,性能的課題としての航続距離が挙げられる.

 航続距離の伸長には電池の搭載量を増やすことが効果的である.しかし,電池の搭載量を増やすと電池製造に係るGHG排出量は増大する.更に車体重量も増える.車体重量が増えると走行抵抗や加速に必要な力が増加し,走行にかかるエネルギーが増大する.走行にかかるエネルギーが増大するとEVの充電に係る発電量が増える.多くの国で発電には化石燃料を用いるため発電時のGHG排出量が増加する.以上のようにEVの導入は,EV普及の大きな目的の一つであるGHG排出量の削減を困難にする.

 EVの普及を妨げる課題として車両価格も挙げられる.大量のバッテリーを使用することで,EVは内燃機関自動車と比較して高価になるが,航続距離,すなわち性能が低下するため,顧客にメリットがない.脱炭素という社会的なメリットは顧客の長期的なメリットになるが,短期的なデメリットがある場合に長期的メリットだけで売れる製品にすることは難しい.そのため,制度的にメリットを付加するために補助金制度などが活用されているが,恒久的な対策にはならないため,EVに内燃機関自動車を上回る価値を付加することが求められる.

 更にEVの大量普及時代を考えると,電力需要の時間的・空間的な偏りも課題として想定される.EVの走行に必要な電力の需要増加に対して,化石燃料による発電を増やすと本末転倒であるため,今後再生可能エネルギーの更なる導入を進めることになる.再生可能エネルギーの割合として多くを占める太陽光発電に期待されることから,日中に電力供給が大きくなる.すると需要を日中に大きくすることが,需給のバランスを保つために最も効果的である.しかし,充電のタイミングはEVユーザが使い勝手によって決めるため需要の時間を変えることは容易ではない.予約充電などのシステムも考えられるが,EVユーザの負担を増やすことになる.


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