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実用化が迫る空間伝送方式ワイヤレス電力伝送システムの進展と展望
小特集 2.
920MHz帯WPTの標準化と技術動向
The Current Regulatory and Technological Status of 920MHz Band WPT
Abstract
2022年5月の電波法関連省令改正に伴い,空間伝送方式ワイヤレス給電(Wireless Power Transmission/Transfer,以下WPT)が利用可能となった.中でも920MHz帯WPTは送電出力が比較的に小さいことから人が行き交う環境でも利用でき,既に様々な環境への応用が展開されている.本稿では920MHz帯WPTの技術的特徴について述べ,その応用例と効果,更なる高度化に向けた要素技術について説明する.加えて,電波法及び運用に関するルールについて整理し,国内・国外における標準化動向についても触れる.
キーワード:空間伝送方式ワイヤレス給電,IoT, Factory Automation,Building Management System,レクテナ
2022年5月26日に,総務省告示第百六十三号が制定された.これは,電波法施行規則の規定に基づき,無線電力伝送用構内無線局の条件を定めたものである.この省令改正によって,空間伝送方式ワイヤレス給電の構内無線局の免許取得が可能となった(1).
中でも,920MHz帯WPTは,人がいる環境でWPTが使用できる唯一の周波数帯である.そのため,本稿執筆時点において,他の周波数帯と比べて,最も普及が進んでいる.こういった背景から,WPTを活用した,複数の事業が展開されている.
920MHz帯WPTは,空間伝送方式WPTの中で最も低い周波数を利用する.したがって,より高い周波数の方式と比較するとアンテナは最も大形であり,アンテナ利得が同じであれば伝搬に伴う減衰は最も小さい.このような特徴から,送電アンテナとしては単一アンテナ,または小規模なアレーアンテナが用いられる.この構成により,920MHz帯に特有の二つの特長が得られる.第1にはビームが広く拡散することにより,広範囲に配置された受電端末に対して同時に給電が可能となることである.例えば,多数のデバイスが同一の場所で利用されるIoTデバイスやセンサ端末への給電に最適である.第2には送電装置を低コスト化できることである.マイクロ波帯における一般的なアレーアンテナは,低損失な誘電体基板上にパッチ素子を配列することで作られる.パッチアンテナの厚みは波長の1~5%程度であるため,920MHzにおいては厚みが10mm前後のパッチアンテナを実現する必要があり,パッチ電極とグラウンド電極の間隙には樹脂などの誘電体ではなく空気層が用いられることが一般的である.これにより少ない材料でアンテナを形成でき,軽量化・低コスト化に寄与する(図1,2).920MHz帯ではアンテナ素子数が少ないため,パワーアンプや高調波フィルタ,給電回路等のアンテナに付随する部品コストを低減できることもメリットとなる.一方で,波長が長いことからビームを細く形成することが困難となり,受電端末における受電電力は比較的小さなものとなる.
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