小特集 4. 5.7GHz帯マイクロ波を用いた小形・高効率ワイヤレス給電システムの開発

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実用化が迫る空間伝送方式ワイヤレス電力伝送システムの進展と展望

小特集 4.

5.7GHz帯マイクロ波を用いた小形・高効率ワイヤレス給電システムの開発

Development of Highly Efficient Wireless Power Transfer System Using 5.7GHz Microwave

谷口健太郎 荒井和輝 三友敏也 坂 耕一郎

谷口健太郎 正員 (株)東芝研究開発センター

荒井和輝 三友敏也 正員 (株)東芝研究開発センター

坂 耕一郎 (株)東芝研究開発センター

Kentaro TANIGUCHI, Kazuki ARAI, Toshiya MITOMO, Members, and Koichiro BAN, Nonmember (Corporate R&D Center, Toshiba Corporation, Kawasaki-shi, 212-8582 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.12 pp.1139-1145 2024年12月

©2024 電子情報通信学会

Abstract

 近年,無線技術により迅速かつ容易に電力を供給可能なワイヤレス電力伝送システムのニーズが高まっている.特にマイクロ波を利用して離れた場所へエネルギーを供給する空間伝送方式ワイヤレス電力伝送システム(以下WPT(Wireless Power Transfer)システム)は,電波法施行規則等の一部を改正する省令(令和4年総務省令第38号)によって正式に国内で利用することが可能となり,市場が広がっていくことが期待されている.空間伝送方式WPTシステムは,利用周波数として920MHz帯,2.4GHz帯,5.7GHz帯が活用可能である.中でも5.7GHz帯は最も大きい電力(空中線電力の許容値は920MHzが1W以下,2.4GHzが15W以下,5.7GHzが32W以下)で給電することが認められており,ディジタルデバイスやIoTセンサなど,幅広いアプリケーションへの適用が想定される.また,波長が短いことからアンテナサイズを小さくすることができ,小形・軽量な専用装置の開発が可能である.本稿では,5.7GHz帯の小形・高効率なWPTシステムに関して,ビームフォーミングを利用したターゲット追従,既存システムとの共存,偏波合成による高効率受電等の取組みについて紹介する.

キーワード:マイクロ波給電,ビームフォーミング,キャリヤセンス,偏波合成

1.は じ め に

 近年,あらゆるものがネットワークにつながるIoT(Internet of Things)社会がうたわれる一方で,デバイスへの電力の安定供給が課題となっている.電源配線の制約によって機器配置が困難となるケースや,バッテリー切れによって機能が停止してしまう問題に対する解決手段として,マイクロ波により数メートル先のデバイスに電力を届ける空間伝送方式WPT技術が注目を集めている(1).空間伝送方式WPTによって,離れた場所にあるデバイスへの電力伝送が可能となるため,機器の電源配線やバッテリー交換が不要となり,完全無線化を実現できる可能性がある.空間伝送方式WPTシステムは,電波法施行規則等の一部を改正する省令(令和4年総務省令第38号)によって正式に国内で利用することが可能となり,周波数として920MHz帯,2.4GHz帯,5.7GHz帯が規定されている.それぞれの周波数帯における空間伝送方式WPTシステムの技術基準の概要を表1に示す(2).5.7GHz帯は最大の空中線電力,かつ最大の空中線利得が認められており,幅広いアプリケーションへの適用が期待されている.また,三つの周波数帯の中で最も波長が短いことからアンテナサイズを小さくすることができ,小形・軽量な装置開発が可能である.更に,小形のアンテナ素子を複数並べてアレーアンテナを構成し,ターゲットの位置に応じたビームフォーミングによる給電も可能となる(3).一方で表1に記載のとおり,2.4GHz帯と5.7GHz帯は既存の無線システムとの共存のためのキャリヤセンス機能の実装が必要となる.本稿では,ターゲットへの追従機能,既存無線システムとの共存機能,偏波合成による高効率受電機能を備えた5.7GHz帯WPTシステムの開発について紹介する.

表1 空間伝送方式WPTシステムの技術基準概要  三つの周波数帯が規定されており,5.7GHz帯の空中線電力が最大となる


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