小特集 5. 自動運転を支えるEMC設計評価技術

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自動運転を支える情報技術の最新動向

小特集 5.

自動運転を支えるEMC設計評価技術

EMC Design and Evaluation Technology Supporting Autonomous Driving

和田修己

和田修己 正員:フェロー 名古屋工業大学未来通信研究センター

Osami WADA, Fellow (Center for Future Communications Research, Nagoya Institute of Technology, Nagoya-shi, 466-8555 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.2 pp.135-142 2024年2月

©2024電子情報通信学会

Abstract

 自動車の安全性を確保するために,車載電気電子機器は高い信頼性が要求される.特に,自動運転を実現するためには,雑音源となるパワエレ機器も存在するEV等の自動車中で車載ネットワークの信頼性と情報通信の完全性を確保する必要がある.複雑システムである車載電気電子機器系の中で通信の信頼性・完全性を確保するために,車載ネットワーク機器のEMC試験法に関する国際標準化,車載通信用トランシーバIC等の集積回路・電子部品のEMC性能を確保するための設計法の開発が進んでいる.本稿では,それら技術の概要と最近の国際標準化動向について解説する.

キーワード:電磁環境両立性(EMC),車載ネットワーク,System Integrity,国際標準化

1.自動車の安全性とEMC

 自動車は故障や誤動作が直ちに事故につながる可能性が高いため,信頼性と安全性の確保が最重要課題である.現在の自動車は,自動運転車ではなくても多くの電子制御機器(ECU)(用語)を有し,センサの雑音や電子回路の誤動作は機能安全性能として許容されない.

 自動運転車の場合は,更に従来の走行性能だけではなく,多くのセンサ出力やカメラ画像などを信号処理用ユニットで処理し,その結果を各種電子装置に伝達して制御することが求められ,また,位置情報のための衛星測位システム(GNSS)や周囲との無線通信など,図1のように複雑な電磁環境の中で通信性能と信号処理性能,及びその信頼性,外来の電磁妨害波等に対する耐性の確保が必要である.

図1 自動車を取り巻く電磁環境と無線情報通信

 EMC(Electromagnetic Compatibility)(用語)は,これらのシステム信頼性・完全性(System Integrity)を確保するための重要な性能要件である.

1.1 自動車の機能安全には何が必要か

 EMC技術は,他に電磁妨害を与えないとともに外部からの電磁雑音・電磁妨害から悪影響を受けない「電磁的両立技術」あるいは「電磁環境適合技術」であり,システム信頼性のための重要技術である.

 以前は,EMCというと「雑音対策技術」と受け止められ,本来の機能設計技術ではなく不要物を事後に排除する技術と捉えられていた.しかし,現在の電気電子システムは多くの機器が信号やディジタルデータをやり取りして全体としてのシステム性能を実現する複合システムであり,もはや問題を見つけて対策するという事後技術では十分な性能は達成できない.その最たるものが自動運転を目指す自動車であり,航空機やドローン,ロボットなども,同様のシステム性能としての信頼性・完全性を確保するためのEMC性能を要求する.

1.2 EV・HVと自動運転時代のEMC問題

 EV・HVは,モータ駆動用のインバータやDC-DCコンバータなど多数のパワーエレクトロニクス(パワエレ)機器を使用する.パワエレ機器の高効率化・小形化のためには,高周波スイッチングと同時にスイッチングのオンオフ時間の短い高速スイッチングが好ましいが,EMCの観点で見ると立ち上がり時間の逆数に比例してスイッチング電流が含む高周波成分の占有周波数帯が広がる.更に,従来のSiからSiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体がパワエレ機器に使用されるようになり,そのスイッチング雑音の周波数帯はGHz帯にまで及び,自動車充電用の無線電力伝送(WPT)システムからの妨害波が,低レベルではあるが840MHz帯LTEの無線通信性能劣化を起こすことが報告されている(1).したがって,高性能パワエレ機器や高速ディジタル信号処理と無線通信の両立のためには,機能設計にEMC性能要件を含んだ設計・開発が必須となる.


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