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解説
人文科学・社会科学におけるデータサイエンス[Ⅱ・完]
――社会科学データの世界――
Data Sciences in Humanities and Social Sciences[Ⅱ・Finish]: The World of Social Science Data
A bstract
本稿では,人文科学と社会科学の各分野で使われているデータサイエンスの技術・方法を解説する.前編の人文科学に引き続き,後編では社会科学の分野ごとの動向を解説する.更に,人文・社会科学領域のデータサイエンスの興味深い研究事例を紹介するとともに,自然科学と人文・社会科学との間で,あるいは人文・社会科学の分野同士の間で顕在化している,データの捉え方や研究方法などにまつわる現時点でのギャップについて取り上げる.最後に,今後のデータサイエンス教育,異分野融合,協働体制への展望を述べる.
キーワード:計算社会科学,統計的因果推論,構造推定,混合研究法,ネットワーク分析
本稿ではまず,前回の人文科学領域に続く形で,社会科学領域におけるデータサイエンスの解説を行う.人文科学とともに構図をまとめると,図1(再掲)のようになる(社会科学側の矢印を省略している).基本的には共通の構図であるが,社会科学を人文科学とあえて対比すれば,個別の文化について深く掘り下げるよりも,人間集団から成る社会の法則性を志向する場合が多い.経済学,法学,政治学・国際関係論,経営学,社会学,心理学,教育学などが代表的な分野である.整備された定型的なデータを活用する分野も多い.変数化自体に考慮すべき要素が山積する人文科学(1)と比較すると,社会科学では自然科学寄りに整備されてきたとは言えよう.
近年の社会科学の顕著な潮流は,内生性の問題に対処して変数間の因果関係を検出する,統計的因果推論(statistical causal inference)と呼ばれる一連の方法(2)~(7)の精緻化や,従来のデータとは異なる行動履歴などのビッグデータを活用した研究,機械学習の利用などである.社会科学のデータに機械学習モデルを当てはめる際には,考慮すべき様々な課題(8)もあるが,法学(9),政治学(10),経営学(7)など,各分野で導入が進んでいる.また,必ずしも数量化とデータサイエンスは同義ではなく,数理モデルを用いた演繹的なシミュレーションのアプローチと,データ分析による帰納的アプローチがあり,それぞれに栄枯盛衰がある(5),(11),(12).しかし,両者を組み合わせる研究も行われており(12)~(14),それらも今後発展していく方法論だと考えられる.
一方,類似した手法を採用している分野同士でも,問題関心の違いに伴い普及するモデルや方法論も異なる場合がある.例えば筒井(15)が挙げるように,異質性をめぐる計量経済学と計量社会学との差異がある.経済学では対象間の異質性を除去した普遍的な行動モデルを志向し,効果量の測定に関心が向く場合が多いのに対し,社会学では異質性自体や集団間の差異に関心が向くため,差異を記述できる手法が多用される傾向にある.
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