オピニオン テレビ報道をディジタル技術で「伝える」から「伝わる」に,取り組み続けた10年

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Vol.107 No.2 (2024/2) 目次へ

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オピニオン テレビ報道をディジタル技術で「伝える」から「伝わる」に,取り組み続けた10年 How Has Journalism Changed with the Introduction of Digital Technology?: Ten Years of Working from “Telling” to “Getting the Message Across”

足立義則 日本放送協会報道局ネットワーク報道部

1.は じ め に

 「NHKのニュース」と聞いて皆さんが思い浮かべることは何だろう.地震など大災害が起きたときに真っ先につけるチャンネル.「正確さ」と「信頼性」に優れている.「テレビ離れ」と言われて久しい今でもそのように思って頂けるのであれば,記者として約20年間,多くの災害や事件,事故などの取材現場を走り回り伝えてきた身として,素直に有り難いと感じる.

 取材の仕事を離れたあと,私は記者たちが取材した内容を,放送ではなくディジタル技術で,具体的にはインターネットのWebサイトやSNSなどで伝えることに取り組んできた.ここではその10年余りで体験してきた,ディジタル技術による「放送メディア」の変革についてお話ししたい.

2.ディジタルで放送は「つながる」ことができた

 前提としてNHKは「放送法」に基づいて受信料を財源に放送することが「本来の業務」であるため,インターネットを活用した業務はあくまで「放送の補完業務」と位置付けられている.私がインターネットを活用した業務についた2012年の当時は,どこまでが「補完業務」なのかもはっきりしない文字どおり手探りの状況で,放送用の原稿を修正してインターネットのNHKのニュースサイトに掲載するという仕事を始めていた.

 テレビにとってインターネットは脅威と感じつつも,まだまだテレビが社会に与える影響力は強かった.それに比べるとニュースサイトに記事を幾ら出してもどれだけの人に届いているのだろう,そんな疑問も感じていた頃,後輩の記者からこんな相談を受けた.

 「風疹のキャンペーンをしたいんです」

 その頃,2013年に国内では「風疹」が全国的に流行していた.風疹の恐ろしさは,妊娠中の女性が風疹ウイルスに感染すると,おなかの赤ちゃんの目や耳,心臓に障害が出る「先天性風疹症候群」で生まれる可能性があることだ.前年の2012年からの風疹の流行によって,45人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断されていた.実は風疹の感染を広げている世代は既に特定されていて,ちょうど予防接種の「空白期間」だった30代半ばから50代はじめ(いずれも当時)にかけての男性たちに,「予防接種を受けて下さい」と伝える必要があった.それも当時は保険適用なしで.しかし放送には限界があった.

 私に相談してきた記者も,風疹の恐ろしさや予防接種の必要性を訴えるリポートを制作してテレビのニュース番組で伝えていたが,なかなか続かなかった.例えば朝のニュース番組で一度放送すると,更に伝えたいとニュース番組の責任者に提案しても「何か違う切り口は?」などと求められる.ならば夜のニュース番組に相談しても「朝の番組で放送していたね」と反応が鈍かった.放送の世帯視聴率が10%だったとして,残る90%には伝えられていないのに,「常に新しいことを求める」.これは放送業界の慣習かもしれない.またインフルエンザなどで亡くなる人も多いのになぜ風疹だけ何度も取り上げるのか,という声も聞かれた.課題を解決するために同じような声を何度も繰返し伝えていくことが,放送は「苦手」だった.でも,インターネットではそれができるのではないですか,と記者から相談を受けた私は,風疹の課題を伝えるWebサイト「ストップ風疹」を制作した(図1)(注1)

図1 「ストップ風疹」サイト

 このサイトには放送の限られた時間内では伝え切れない,風疹に関する詳しい解説やデータ,放送したリポート内容の書き起こしなどを掲載したが,それが思わぬ効果をもたらした.


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