1200号記念特集 2 未来予想図(健康編)

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1200号記念特集 2 未来予想図(健康編) Future Visions: Health Care 高橋 応明

高橋応明 正員:フェロー 千葉大学フロンティア医工学センター

Masaharu TAKAHASHI, Fellow (Center for Frontier Medical Engineering, Chiba Univeresity, Chiba-shi, 263-8522 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.3 pp.207-210 2024年3月

©2024 電子情報通信学会

1.朝

 僕は,「窓」からの差し込む朝日で,熟睡感を伴い時間どおりに目覚めた.睡眠中の脳波モニタにより,昨夜,寝る前に設定した時間に,ベッドの状態や室温などが快適な目覚めを促すようにコントロールされ,「窓」から日光を模した光によって朝が演出される.ここ火星では,大気が希薄なため建物の密閉性のほかに,隕石などの事故などから守るため,窓はほとんど大形ディスプレイで代替されている.「窓」からの景色を確認した後,「窓」を鏡に切り替えて身支度を始め,そばに表示される今日のスケジュールなどを確認していた.最近,てこずらされているタスクに目が止まった.何か引っ掛かると,ちょっと見つめていたら,はっと思った.昨晩見た夢の中で,解決したような気がした.それもあって,今朝の爽快感があることに思い至った.AIコンパニオンのShinnosukeに話し掛けた.Shinnosukeは,基本的に犬型をしている.AIコンパニオンは,人型をはじめ,好きなボディをカスタムメイドできる.もちろん,バーチャルだけで済ませてしまう人も多くいるのだが,僕は子供の頃に地球で飼っていた甲斐犬の信之助が忘れられなくて,費用が余計にかかってもこのボディをカスタムした.一人暮らしの僕には,声を使った話し相手や,抱きしめられることで慰めてくれる家族だ.

 「Shinnosuke,昨日僕がどんな夢を見たか教えて」

 「分かったよ.昨晩は二つの夢を見たよ」

と,Shinnosukeは応えて,「窓」に夢を写し始めた.

 頭に注入したナノロボットが脳のシナプスに多数貼り付いていてBMI(Brain Machine Interface)となっており,イオンをモニタしたり,脳を刺激したりしている.これらのナノロボットからのワイヤレスシグナルを解析することにより,身体の活動をアシストしたり,何を感じてどう考えたかが分かるようになっていたりして,夢のダイジェストくらいは再構築できるようになったのだ.

 僕は,二つ目の夢ビジョンを見ているうちに,夢での出来事を思い出した.この1週間,悩まされていたタスクを見事に解決していた.本当にこの夢のとおりに解決できるのか,このアイデアをShinnosukeに告げて,記録してもらった.

2.ナノロボット

 脳をはじめとして,関節や血管内,腸内など身体の至る所にナノロボット(nano robot)が潜んでいる.一口にナノロボットといっているが,その種類はたくさんあり,それぞれが役目に応じた機能だけを持っている.血管内のナノロボットは,酸素濃度を含め様々なバイオマーカを巡回監視している.がんやアルツハイマーなどの疾病の原因物質が特定されているので,それをモニタしている.関節などに潜んでいるナノロボットは,ひずみセンサや加速度センサなどを装備しており,身体の動きをモニタしているといった具合だ.これらナノロボットはカルシウムイオンなどによるイオン電池で動作しており,相互に通信と中継をしてネットワークを形成している.これらの情報は,個人のAIコンパニオンに集められて,記録,解析される.

 もちろんナノロボットを体内に注入することは,個人の意思による.しかし,ナノロボットのおかげで,病気の予見と早期発見,治療ができるため,ひどい病気にはかからない.この技術が出てきた頃は,抵抗を感じる人も多くいたのだが,ナノロボットを注入すると,医療保険の掛け金が格段に割り引かれたのと,実際に体験した早期治療などの実体験がSNS(Social Networking Service)で広まり,そのベネフィットにより,健康に悩まされることなく生活できるようになった.そのため,今ではほとんどの人がナノロボットを体内に注入している.


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