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100年後の情報通信が支える未来予想図を描くのは難しいことであるが,今から100年前の21世紀の予想図の多くは実現できていることから考えて,人間が想像可能な技術は実現できるものと信じている.100年後の未来でも情報が乗せられているのは電波であるのか光なのか,また他の手法であるのかは予想が難しいが,無線技術がいまだ社会の基盤として利用されているであろうとは予想する.そしてその無線技術は,情報通信は当然として,ワイヤレス給電というエネルギーの無線化技術もその一つであると確信している.100年後には電気が空気のように,絶対必要であるが普段はその存在を認識せず暮らしているものとして,私たちの身の回りに存在するようになっていると考えている.本稿では応募作品「いつでもどこでもでんきがつかえるせかい」に対するアンサーとしてワイヤレス給電の現状と100年後の未来予想図について解説する.
空間伝送方式ワイヤレス給電(WPT: Far Field Wireless Power Transfer)は100年以上前のN. Teslaの実証実験に端を発し,1960年代の主に2.45GHzのマイクロ波を用いたW.C. Brownのナロービーム方式WPTの各種実験の成功で技術が格段に進歩した(1).ナロービーム方式とは高利得送電アンテナを用いて1ユーザに高効率でマイクロ波エネルギーを送るWPTシステムである.2010年代以降はkHz-MHzの結合方式WPTの携帯電話充電器の商用化や電気自動車充電器の開発が進み,2020年代に入ると空間伝送方式WPTの法制化と商用化が進んできた.現在法制化され商用化され始めたのはワイドビーム方式WPTと呼ばれるタイプで,高くない利得の送電アンテナを用いて複数ユーザに同時にマイクロ波エネルギーを送るWPTシステムである.人体への安全性を確保し,既存ワイヤレスシステムへの干渉低減を行った結果,ユーザが利用可能な電力は現状mW程度であるという特徴がある.
京都大学では1980年代頃から,ナロービーム方式WPTの研究を中心に,後述する宇宙太陽光発電SPS(Solar Power Satellite)の研究を行ってきた(2).2000年頃からワイドビーム方式WPTの研究や,WPTビジネスの推進を積極的に行ってきて現在に至っている.図1は,京都大学で2004年頃に実験に成功した,2.45GHzを用いたワイドビームWPTによる携帯電話の充電実験である(3).この人体への安全基準以下の強度のマイクロ波で満たされた空間にレクテナ(受電整流アンテナ)を置いておけば,携帯電話が自動でマイクロ波により充電され続けることができた.
この実験から20年以上,技術は格段に進み,送電器受電器も小さくなり,もう実用化が始まっている.空間伝送方式WPT実用化の期待が高まる中,長年の関係者の努力が実り,2022年5月には日本で世界初となる空間伝送方式WPTの省令改正が実施され,920MHz帯1W(EIRP36dBm),2.4GHz帯15W(EIRP65dBm),5.7GHz帯32W(EIRP70dBm)のWPTシステムが屋内免許局(920MHz帯は免許不要)として承認された(4),(5).
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