1200号記念特集 8 SINIC理論とデジタルネイチャー

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1200号記念特集 8 SINIC理論とデジタルネイチャー SINIC Theory and Digital Nature 落合 陽一

落合陽一 筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター

Yoichi OCHIAI, Nonmember (Research and Development Center for Digital Nature, University of Tsukuba, Tsukuba-shi, 305-8550 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.3 pp.226-232 2024年3月

©2024 電子情報通信学会

1.SINIC理論とデジタルネイチャー

 筆者らがデジタルネイチャー(計算機自然)(1)について探究をし始めて早9年.筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター(2)では計算中心の自然観を念頭に置いて様々な領域と計算機科学の交差点で研究を続けている.読者の皆様にとって計算中心の自然という考え方は一見するとなじみがないかもしれないが,計算機的な世界の延長線上に持続可能な自然を捉えるという未来ビジョンは意外と長い歴史を持っている.今回の寄稿では学生さんたちから多くのアイデアが寄せられたが,その中に自然と人為の融合を見るようなアイデアが多くあったためまずはこのトピックから始めようと思う.

 今からおよそ50年前,立石一真によって1970年に提唱されたSINIC理論(3)は,種(Seed),革新(Innovation),必要性(Need),刺激(Impetus),円環的発展(Cyclic Evolution)の相互作用を通じて未来を予測する理論である.立石によるこの理論は,社会の変化を円環的な発展として捉え,技術革新が社会のニーズに応える形で進行すると考える.このSINIC理論の発展形式によって理解すれば,現在,我々は「最適化社会」に位置しており,効率や生産性,物質的な価値から精神的な豊かさを求める価値観へと移行しているとされている.そしてここから少し先の未来の社会は「自律社会」として予測されている.これは,現在の人間管理型社会から,計算機によって自動的に制御され,より自然に近い自立制御の状態への移行を意味し,人々の心(ウェルビーイング)中心の価値観に基づいた自律分散型の社会を指すのだろう.この社会では,活動の場が物理空間の制約なく分散化され,感覚,感性,情緒,信仰などへの関心も高まることが予測されている.更に,SINIC理論ではその後の発展として「自然社会」に到達することを予測しており,これは人間社会の活動と技術が自然の摂理やプロセスの一部に融和し,持続可能な循環型社会を形成するとされている.

 一方で,筆者らが提唱するデジタルネイチャー(計算機自然)は,計算機科学視座に立った自然観である.あまねく存在する計算機とその計算機を通じた理解が進展した時代におけるコペルニクス的転回によって自然観がそもそも変化した状態を想定している.そこでは計算機も人も万物が包含された計算可能で自律的な自然を対象とし,研究領域としては物質世界と実質世界の間に新たな関係性を築き,計算可能なものと計算不能なものの間を橋梁することを目的としている.筆者ら,デジタルネイチャー研究室及びデジタルネイチャー開発研究センターでは,ユビキタスコンピューティングの先を見据え,人と機械,物質と実質の間に多様な選択肢を提示し,産業・学問・芸術における問題解決に取り組んでいる(4)

 これはつまりSINIC理論でいうところの「自然社会」の到来後の「新しい自然の姿」がデジタルネイチャーと筆者らが呼ぶ新しい自然であり,元来の自然も,人間も,デジタルネイチャーの一部として捉える考え方を基に,筆者らは研究対象としての新しい自然を眺め,探求を続けている.その価値観に基づけば,人類も動植物も宇宙も時空もある種の「計算装置」であり,人間とAIに線引きするのではなく,どちらも計算機や計算の一要素として分け隔てない見方で捉える.もちろん予測可能・予測不能,計算可能・計算不能の差はあれど,計算という価値観に基づいて統合された超自然の一部であるとして森羅万象を考えている.筆者らにとってその自然は未来に突然現れるのではなく,今も既に存在し,人々に計算中心の自然観についての認識が広まるとともに社会インフラも同時に発展していくものであると考えている.


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