特集 10. ヒューマンコミュニケーション研究から見る未来のかたち

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Vol.107 No.3 (2024/3) 目次へ

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特集 10. ヒューマンコミュニケーション研究から見る未来のかたち Envisioning the Future: A Human Communication Research Perspective 新井田 統 小森智康 酒向慎司 田中章浩 布川清彦

新井田 統 正員:シニア会員 (株)KDDI総合研究所デザインリサーチグループ

小森智康 正員 (株)NHKエンタープライズデジタルサービス事業部

酒向慎司 正員 名古屋工業大学工学部情報工学科

田中章浩 東京女子大学現代教養学部心理・コミュニケーション学科

布川清彦 正員 東京国際大学人間社会学部人間スポーツ学科

Sumaru NIIDA, Senior Member (Design Research Group, KDDI Research Inc., Tokyo, 105-0001 Japan), Tomoyasu KOMORI, Member (Digital Services Department, NHK Enterprises, Inc., Tokyo, 150-0047 Japan), Shinji SAKO, Member (Department of Computer Science, Nagoya Institute of Technology, Nagoya-shi, 466-8555 Japan), Akihiro TANAKA, Nonmember (School of Arts and Science, Tokyo Woman’s Christian University, Tokyo, 167-8585 Japan), and Kiyohiko NUNOKAWA, Member (School of Human and Social Sciences, Tokyo International University, Kawagoe-shi, 350-1198 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.3 pp.237-243 2024年3月

©2024 電子情報通信学会

1.は じ め に

〔新井田〕今日はお集まり頂きありがとうございます.本日の趣旨は,会誌1200号記念特集の企画として,学生,生徒,児童から「100年後の情報通信が支える未来予想図」として寄せられた作文や絵画,イラストから,ヒューマンコミュニケーション分野で研究活動をする皆さんに作品を選んで頂き,それぞれについてコメントをしながら議論をして,ヒューマンコミュニケーション的視点で未来を考えるということについてまとめていきたいと思っています.

2.自分自身との対話

〔酒向〕(作品10の中学生作文「タイムマシーンはできていないけれども,過去の自分との対話はアーカイブがあるのでできるようになっている」について)高校生にも同じような視点の話がありましたが,自分と対話するという視点は,なるほどと思いました.自分自身と会話するというのはコミュニケーションの研究でもあまり扱われていない気がして,100年後にそれができたらどうなるのかというのは考えさせられました.

作品10 坂本 梓(徳島県美馬市立江原中学校3年)

 人間にも3DのIC基盤が埋め込まれているから何をしたいか,どこへ行くのかなどの実現が瞬間的にできる世界になっている.病気も未然に防ぐことができるようになっている.遺伝的な病気もゲノム編集や遺伝子組み換えがIC基盤によって自動的にされて防がれる.大半の人が自分の生き方や寿命を決められて,見た目も変えることができる.仕事はAIができる部分がほとんどになっているから,本当に人でないとできない部分,生身の人間が直接会わなければできないものだけをする時代になる.そうなると国とか人種とかいったものは関係がなくなる.そんな世界が嫌だという一部の人は島でディジタルとは全く無縁の生活をするようになっている.その世界同士の行き来も自由だ.

 タイムマシーンはできていないけれども,過去の自分との対話はアーカイブがあるのでできるようになっている.家族や友人とも許可があればどの年齢の相手とも会話できる.何でもできるから,反対に不便を楽しむ時代になっているだろう.

〔田中〕私も作品10がいいなと思いました.100年後の世界が全体的にこうなっているというのが描かれていてリアルに想像できました.

〔小森〕私は作品61(高校生イラストと作文)の「ロボットである男の人は何も思いがない.つまり,感情がないということを表現しました」が気になりました.それは,ロボットには心がないというのが書いてあったところで,私は心があってほしいという気持ちもあり,心がざわつきました.

作品61 塚越珠雫(岡山県津山工業高等専門学校3年)「私の思う100年後の未来」

 私はあと30年ほどたつと目の動きや肌の質感などがより人間に近くなり,ほとんど人間とロボットか区別できないようなロボットが完成し,50年ほどたつと私たちの生活に溶け込み始めると思います.ロボットにはその人その人に合うような行動をとることができるので,どんどん生活になじんでいくと思います.そして,100年後にはいつも隣にいてくれる友達や恋人が本当に人間なのかロボットなのかが分からない世界になると思います.また,身の回りの自然も作り物が多くなっていると想像しました.この絵では,恋人が歩いている風景なのですが,人間である女の人の方には「幸せ」「このままずっと一緒に」「この人は人間? ロボットなの?」などなど,たくさんの思いが浮かんでいます.一方,ロボットである男の人は何も思いがない.つまり,感情がないということを表現しました.また,まわりの風景は何が作り物で何が本物なのか分からないとあえてしっかりとした形を描かずにぼかしました.

〔新井田〕私も自分自身との対話が描かれた作品を選びました.それを読みながら作品61を見ると,心がないものだと判断しているロボットと対話してるのは,結局自分と対話しているとも考えられますね.相手は鏡みたいなもので,自分がやったことへの反応があるということで.この二つは,何か似たようなことを実は言っているのではないかと感じます.


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