小特集 3. 金属酸化物系シナプス素子のニューラルネット回路応用

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AIチップに向けた不揮発性メモリ技術とその展望

小特集 3.

金属酸化物系シナプス素子のニューラルネット回路応用

Neural Network Circuit Applications of Metal-oxide Synapse Devices

丸亀孝生 水島公一 野村久美子 西 義史

丸亀孝生 正員 (株)東芝研究開発センター

水島公一 (株)東芝研究開発センター

野村久美子 正員 (株)東芝研究開発センター

西 義史 (株)東芝研究開発センター

Takao MARUKAME, Kumiko NOMURA, Members, Koichi MIZUSHIMA, and Yoshifumi NISHI, Nonmembers(Corporate R & D Center, Toshiba Corporation, Kawasaki-shi, 212-8582 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.4 pp.304-310 2024年4月

©2024 電子情報通信学会

Abstract

 AI向けハードウェアの高性能化のためには,ニューラルネットワーク回路に脳模倣型の新規デバイスを融合するアプローチが有望である.これまでに金属酸化物を用いた可変抵抗素子において,生物学的シナプスの可塑性に類似したアナログ特性が報告されている.このような脳模倣素子をシナプス素子と呼び,高速かつ低消費電力なアナログ積和演算器への応用が期待される.シナプス素子を自律学習などへ適用することも期待されており,金属酸化物中のLiイオンなどを用いた新しい動作メカニズムと応用の開拓も盛んになってきている.本稿では,筆者らがこれまでに取り組んできた金属酸化物系シナプス素子と,それを用いたニューラルネット回路応用技術について紹介する.

キーワード:シナプス素子,ニューラルネット,金属酸化物,Liイオン

1.は じ め に

 大規模ニューラルネットワーク(NN: Neural Network)は,深層学習や生成系などの応用で有用な人工知能(AI: Artificial Intelligence)の基盤技術として成功を収めている.高性能なNNベースAIを実現するためにはニューロンのシナプスに相当する大量の重み値を学習により最適化する必要がある.学習では事前の訓練に用いる学習データを積和演算処理して,出力が目的に近づくように重みを繰り返し更新する.大規模NNの学習は大量データを扱うのに適したクラウドコンピューティングサーバや,ベクトル演算及び積和演算が高速な汎用GPU(Graphic Processing Unit)を用いて実行されるのが一般的である.しかしそれでも学習処理にかかる時間は長く大きな消費電力を必要とすることから,学習に必要なエネルギーは膨大となってしまう.したがって学習システムの小形化は今のところ原理的に難しい課題であって,IoT(Internet-of-Things)機器などがスタンドアローンで学習する事例は多くはない.実用的な現実解として学習はあらかじめ済ませておき,推論用にはCPUとGPUを組み合わせて用いる.用途限定的に更に高性能な推論器が必要となる場合はASIC(Application Specific Integrated Circuit)やSoC(System-on-Chip)が開発運用される.CPU,GPU,ASIC,SoCは基本的にCMOSディジタル回路であり,高性能化のためには高価な半導体製造プロセスを用いる必要がある.今後,推論において低消費電力での常時動作を可能にするAIチップを実現すること,加えて学習を高効率化して小形システムに実装するには従来型のCMOSディジタル回路よりも優れたアーキテクチャ及び新しい演算・記憶原理の導入が望まれる.その有望なアプローチの一つが脳模倣型のハードウェア技術すなわちニューロモルフィック技術である(1)(11)

 本稿では図1のようなニューロモルフィック技術において特に金属酸化物系薄膜技術を用いてシナプスを模倣した素子(以下,シナプス素子)を示す.これは不揮発性メモリ素子の研究開発から派生した技術であって可変抵抗器型のいわゆるメモリスティブ(memory+resistive)な素子である.更に比較的最近よく報告があるイオン伝導を用いた電池型の素子の例も示す.これらシナプス素子のニューラルネット回路に応用した際の有望性の実証結果と展望も紹介する.

図1 ニューロモルフィック技術とシナプス素子の例  演算部に相当するニューロン全体は回路技術を用いて作られることが多く,その中の記憶部であるシナプスは金属酸化物薄膜の素子技術を用いて可変抵抗(メモリスティブな素子)あるいは薄膜全固体電池のような技術で模倣することができる.


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