小特集 5. 強誘電体メモリの特徴と技術の進展

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AIチップに向けた不揮発性メモリ技術とその展望

小特集 5.

強誘電体メモリの特徴と技術の進展

Characteristics and Technological Progress of Ferroelectric Memory

酒井滋樹 高橋光恵

酒井滋樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所デバイス技術研究部門/九州工業大学ニューロモルフィックAIハードウェア研究センター

高橋光恵 国立研究開発法人産業技術総合研究所デバイス技術研究部門

Shigeki SAKAI, Nonmember (Device Technology Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba-shi, 305-8568 Japan―Research Center for Neuromorphic AI Hardware, Kyushu Institute of Technology, Kitakyushu-shi, 808-0196 Japan) and Mitsue TAKAHASHI, Nonmember (Device Technology Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba-shi, 305-8568 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.4 pp.319-326 2024年4月

©2024 電子情報通信学会

Abstract

 近年新たな強誘電体が種々現れ強誘電体の前途は明るい.FeRAMとFeFETへの要求仕様は正反対であることを紹介した.FeFETメモリのデバイス電気特性データは2000年以降蓄積されてきた.パルス書込みとその後の読出しの実験は,メモリの基本である.分極スイッチ時間が対数スケールで遅い時間まで広がるが,この動的動作のための理論がなかった.強誘電体膜が多結晶であることを踏まえ,多結晶を正面から扱うモデルを提唱し,実験との比較を通して優れた結果を得た.結果の一例を紹介した.AIチップ向けの2入力1出力積和演算回路をFeFET集積技術で作り正しく積和演算できていることを検証した.

キーワード:強誘電体メモリ,電気分極,強誘電体トラジスタ,FeFET,ドメイン

1.は じ め に

 強誘電体は,1920年にロッシェル塩でその現象が発見されたことに始まる(1).キュリー温度の上下で分極がランダムからそろった状態に変化する秩序―無秩序型であった.時間が経過して1945年にBaTiO3が1950年にPbTiO3に発見された(2),(3).変位型の強誘電体と呼ばれ,キュリー温度より上では原子の変位がなく,下で特定の原子の位置が変化する.これらはペロブスカイト結晶構造を持ち,図1のように立方体の中心に位置するTi原子が上か下に少しシフトした原子位置変位の状態が安定である.その後TiのサイトをZrが共有するPb(Zr,Ti)O3(PZT)材料が大いに研究された.PZT薄膜の上下両側を金属膜で挟んだ強誘電体キャパシタと選択トランジスタを組み合わせた強誘電体メモリ(FeRAM)は高信頼性を特徴とし,4MByteクラスメモリの量産技術が紹介されている(4)

図1 ABO3ペロブスカイト型結晶格子を用いた強誘電性の概念説明

 1990年代前半に繰返し動作での特性劣化が少ないことを特徴とするSrBi2Ta2O9(SBT)強誘電体の公表があった(5).Bi層状ペロブスカイトと呼ばれる.ペロブスカイト的な単位をBi-Oの層で挟んでc軸を構成するためc軸は2.5nmと長い.強誘電体分極の方位はa軸にある.残留分極は,5-8µC/cm2とPZTに比べて小さく,抗電界は50kV/cmと同程度である.筆者らは,2000年前後から現在に至るまでSBTとCSBT(mathmath)による強誘電体トランジスタの研究に従事している.確かに,繰返し動作に対する耐性に優れている.残留分極が小さいことと,原子位置変位を単位胞の原子全体で受け持っているためと考えている.SBTは残留分極が適度に小さいことが強誘電体トランジスタに適している.結晶構造名に同じペロブスカイトがあるため,最近同類に扱われることがあるが,PZTとSBTは物性が違うので,分けて考える必要がある.

 別のシリーズのBi層状ペロブスカイトも研究された.Bi4Ti3O12とその変形のmathである(6),(7).Lnはランタン系列の元素でLa,Nd,Sm等である.同じBi層状ペロブスカイトでも,結晶単位胞を表現する対称性が異なるので,SBTとBi4Ti3O12も同列に扱えない.Bi4Ti3O12は,a軸方向の大きい残留分極のほかに,c軸方向にも小さい残留分極がある.Bi4Ti3O12系は地道に研究されている.非鉛材料という位置付けは環境配慮の点で常にある.SBTよりも結晶化温度が低いことも特徴である.


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