小特集 8. 粘菌に触発された組合せ最適化計算機「電子アメーバ」とその記憶機能

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AIチップに向けた不揮発性メモリ技術とその展望

小特集 8.

粘菌に触発された組合せ最適化計算機「電子アメーバ」とその記憶機能

Amoeba-inspired Combinatorial Optimization Machine “Electronic Amoeba” and Its Memory Functions

葛西誠也 青野真士

葛西誠也 正員 北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター

青野真士 Amoeba Energy株式会社

Seiya KASAI, Member (Research Center for Integrated Quantum Electronics, Hokkaido University, Sapporo-shi, 060-0813 Japan) and Masashi AONO, Nonmember (Amoeba Energy Co., Ltd., Tokyo, 108-6022 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.4 pp.340-346 2024年4月

©2024 電子情報通信学会

Abstract

 生物粘菌の情報処理プロセスを電子回路で模倣して組合せ最適化計算を行う「電子アメーバ」は,粘菌が自然淘汰を経て獲得した生き残るための最適化戦略を電子的に具現化する.電子アメーバはメモリ素子を陽に具備していないが,粘菌の遅い身体変形ダイナミクスを表現する容量素子が記憶機能を担い,その最適解探索能力に決定的な影響を与える.本稿ではアナログ形の電子アメーバの最適化戦略における記憶機能の役割と現状の理解について述べる.また,不揮発性メモリが電子アメーバにもたらす最適解探索能力の進化の可能性に触れる.

キーワード:粘菌,最適化計算,行動様式,記憶機能,アナログ電子回路

1.は じ め に

 単細胞生物である粘菌は迷路を解くなどの情報処理能力を持ち(1),時に「知的」とすら感じられる行動を示す(注1).秩序立った動きに予測や計画性が垣間見られるためである.辞書には「計算とは情報に基づき予測や計画を行うこと」とあることから,粘菌にある種の計算能力があると言える.この粘菌の計算能力を電子回路上に再現した電子システムを「電子アメーバ」と呼んでいる(3).電子アメーバは汎用計算機とは異なる仕組みと構造を持ち,組合せ最適化問題を解くことに特化した非ノイマン形専用計算機の一種である.

 組合せ最適化計算機として「量子アニーラ」や「擬似量子アニーラ」と呼ばれるイジングマシンの研究開発が活発化している(注2).これらは磁性体の物性を理解するために単純化されたスピン格子であるイジングモデルをハードウェア実装し,系のエネルギー最小化過程を最適化計算に結び付ける(5).一方,電子アメーバは粘菌が生存のためにリスクを避けつつ餌の摂取量が最大になるように身体形状を変化させる能力を最適化計算に結び付ける(図1).厳しい環境の中で生物が生き延びるために獲得した計算であり,物質のエネルギー最小化とは計算の動機付けが異なっている.

図1 電子アメーバの概念g

 記憶はイジングマシンと電子アメーバを区別する1要素である.イジングモデルには記憶要素は含まれないが,粘菌には原始的な記憶機能がある.表1は,人の情報処理系,半導体,生物粘菌及び電子アメーバの記憶要素である.人には感覚記憶,短期記憶,長期記憶という時間スケールが異なる記憶があり(6),遺伝を含めると4階層ある.半導体には各階層に対応するメモリ素子がある.一方で粘菌は脳を持たず明に記憶を担うものはない.しかし代謝機能や鈍い身体変形が履歴を持ち記憶として働く.電子アメーバでは容量素子がこれを担う.では,電子アメーバや粘菌の計算において記憶はどのような役割を果たすのか,また,長期の記憶を付与するとその計算能力は発達するのか.


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