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解説
ブレインモルフィックコンピューティングの創生に向けて
Towards Brainmorphic Computing
A bstract
脳に進化的に創発した高効率で高性能な脳特異的情報処理様式の実現のためには,脳の複雑構造と複雑計算の関係,局所的・大域的で統合的な高次元ダイナミクス,身体性,生物物理現象による計算などを考慮した新しい脳型計算の枠組み,すなわち,ブレインモルフィックコンピューティングの枠組みが必要である.更に,これを工学的に実現するためには,例えば半導体物理現象を直接的に活用した実装が必須である.本稿では,ブレインモルフィックコンピューティングの概要と,特に重要であるそのハードウェア実装について述べる.
キーワード:脳型情報処理,ブレインモルフィック,ニューロモルフィック,複雑構造・計算,身体性
1980~1990年代に,現在の人工知能(AI)の重要な要素である誤差逆伝搬学習則,多数の層から成る深層(ディープ)ニューラルネットワーク(NN: Neural Network),自己組織化NN, Hopfield型NN等が次々に提案され,第2次NNブームが勃興した.これと同時に,NNのハードウェア(HW)実装の研究も盛んになった.
この潮流の中で,1990年にC. Meadが,アナログ半導体デバイス・回路と生体神経系との動作の類似性に着目して,Neuromorphic Electronic Systemsの概念を提唱した(1),(2).この要点は,脳計算の基本要素(Computation Primitives)は,以下に示すような物理現象を使った計算であり,これらはシリコン半導体でも同じように実現できるという指摘であった.
(1)電荷によって表現される連続な状態変数.したがって,アナログ回路が重要.
(2)要素間の特定的(Specific)な結合.すなわち,専用回路網.
(3)エネルギー保存則を利用した物理演算.電荷保存則やキルヒホッフの法則(電流加算や積分).
(4)膜イオン電流の膜電位に対する指数関数的応答(注1).半導体デバイスではMOSFETのサブスレッショルド領域での指数的電圧―電流特性(注2)がこれに相当.
(5)様々な非線形性を使った計算.アナログ回路では複数のトランジスタを用いて実現可能.
(6)長期記憶及び学習.アナログメモリが必要.ただし,文献(1)では余り触れられていない.
このように,神経系と同様な基本計算原理を半導体デバイス固有の物理特性により実装するシステムを,ニューロモルフィック(NM: Neuromorphic)HWと定義したのである(以下,NM-HW).
さて,第2次NNブームの頃は,主な実装対象の構造が,図1の左2列に示すような単純な階層形(FF: Feedforward)-NNや相互結合NN(RNN: Recurrent-NN)等の基本構造に限られていたことや,当時はアナログデバイス・集積回路技術が大規模なNM-HWを構築できるほど成熟していなかったことに加え,人工NNモデルが単純化され過ぎたことなどにより,当初期待されたHW性能が実現できなかった.このような状況下で,第2次NNブーム自体も去ってしまった.
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