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人と共生・協働するAIロボットの実現は長らく工学系研究の到達点・夢の一つであった.古くからの工学的なハードウェアへのアプローチに対して近年の情報学的なソフトウェアへのアプローチが融合することで,この夢が急速に形を持って我々の目の前に姿を現しつつある.しかし,ロボットが我々の生活パートナとなるためにはまだ多くのハードルが存在する.理化学研究所ガーディアンロボットプロジェクト(GRP)ではロボットが持つべき「こころ」や「主体」に着目し,我々が夢見てきたAIロボットを実現しようとしている.本稿ではGRPにおけるこれまでの研究と今後の展望について説明する.
キーワード:AIロボット,対話,知能,ヒューマンロボットインタラクション,主体・目的
自律的に行動し対話することができるロボットが人間と共生・協働している場面は,サイエンスフィクション(SF)などでしばしば描かれてきた未来像である.こうした未来像は筆者が生まれたときから世の中にありふれていた一方で,その実現には期待よりも多くの時間を要している.例えば,テレビアニメで鉄腕アトムが描かれた1963年当時,自律ロボットは2003年には社会にありふれていると予想されていたが,実際はそうではない.今後こうした未来を実現するためには何が必要なのか,どのような問題点があり現在地はどのようなものか,整理しつつ今後のアプローチについて考える必要がある.
まず,自律的なロボットは実空間で人間と共存することが期待されている.この共存にあたっては,人間と場を共有し,場の状況に応じた適切なコミュニケーションを取る必要がある.この際,人間と場の認識を共有するために,人間と同様の,あるいはそれに類する認知機能・感覚センサが必要となる.また,人間が行うインタラクションは様々な知識・常識とそれらを利用した推論に基づいており,こうした推論をいかに利用可能にするかも重要である.最後に,ロボットが観測結果に応じて何らかの意図や意味を表現する際,その表現をいかに表出するか,そのためにロボットが持つアクチュエータをはじめとする各機構をどのように動作させるか,が重要である.これらの問題を解決するための枠組みについて,理化学研究所ガーディアンロボットプロジェクト(理研GRP)では様々な議論を行っている.
これらの問題のうち,場の認識課題の多くはパターン認識の問題として定式化されてきた.近年のAI関連研究の進展により,パターン認識の問題はかなりの部分が解決されたと言ってよい状況になっている.これは,規定のラベルセットを用いた場の認識(物や人に関する認識)に関しては人間と同様のレベルでシンボル化・記号化が可能となったことを意味する.しかし,近年のAI・機械学習に基づく手法の多くは人間の解釈付きデータに含まれる知的振舞いの証跡を抽出しているにすぎず,オープンワールドなどの実際的な状況における人間の認識,つまり分節化と符号化のプロセスについてはまだ大きな課題を残している.例えば,未知の物体クラスの分化,新しい名付け,他者が示す新しいコンセプトの対話的な理解などは,残された課題である.
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