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生成系AIは,あらゆるディジタルコンテンツの見方や作り方を変えつつある.しかし,この変化がもたらす社会への影響や,現在の技術の制約には,多くの曖昧さと不確実性がある.本稿では,生成系AIにおける拡散モデルなどの一般的な技術,社会への潜在的な影響,及び技術の制御性について論じていく.ここでの主な課題は,学習に使われた訓練データ及びそれを基に生成されたコンテンツの著作権に関する法的な問題や,ユーザの制御性の重要性などが挙げられる.
キーワード:機械学習,拡散モデル,生成モデル,生成系AI
我々は,約200年前にカメラが発明されたのと同様のコンテンツ作成のパラダイムシフトを目撃している.数千のハイエンドな演算ユニットを数か月にわたって使用する学習は,モデルが訓練データから複雑な確率関係を学習するのに,従来の手法より優れている.ただし,生成系AI(用語)は著作権,派生作品,そしてアート自体の意味といった概念を揺るがすため,現在のコンテンツ作成のエコロジーに対する深刻な問題を抱えている.生成系AIが示す驚異的な潜在力は,良くも悪くも,ディジタルアートの作成及び鑑賞を永遠に変えることとなる.次の数年間は,生成系AIが社会でどういった役割を果たすかを決定する上で重要なものとなるだろう.
まず第1に,機械学習モデル(用語)の一種であり,「生成系AI」として知られている生成モデル(用語)は,技術的には人工知能(AI: Artificial Intellegence)の分野に属する.しかし,生成モデルが人間のようにものを理解しているといった根本的な誤解を招いているという考えから,筆者個人としてはこの用語の使用に強く反対していることを断っておきたい.生成モデル等は,複難化された曲線近似にすぎず,人間のような能力を想起させる語である「人工知能(AI)」ではなく「機械学習」と呼ぶべきである.研究者やメディア等における「人工知能」という語の使用は,生成モデルの複雑化に伴って,ますます理論や理解が追いつきづらい現状において,生成モデルに対する擬人的な見方を助長している.この擬人化は単なる誤解というだけではなく,実世界での危険な結果をもたらす可能性もあると言及されている(1).更に,こうした生成モデルがどれだけ汎化できるかについてはまだ議論の余地があり,最近の研究では,これまで考えられていたよりも汎化性能がはるかに低い可能性が高いことが指摘されている(2).コンテンツ生成の分野では,このような擬人化は著作権と創造性に関する混乱を引き起こし,分野全体に対して有害になり得る.生成モデルはプログラマによって書かれたコードや大量の提供された訓練データ,そして試行錯誤が必要であるため,自律的なエージェントではない.代わりに,これらは人間のクリエイターが利用できるツールとみなすべきである(3).
本稿では,主に視覚コンテンツに焦点を当てるが,議論されるほとんどの内容は,音声コンテンツや言語コンテンツなど他の分野にも適用可能だと考えている.
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