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街からデータを集めて複合的に処理し,生成された情報を街へ還流して,人のウェルビーイングを向上させる「スマートシティ」の分野における人とAIの協働を解説する.従来型CPSのデータ収集,処理,還流の各過程に加え,データへの本質的な要求を生む都市の「未来像」を起点とした考え方への転換を論じ,それらの各過程における人間とAIの協働について述べる.筆者らが推進しているShonanFutureVerseプロジェクトの実例を紹介しながら,協働の現在と将来像に触れる.
キーワード:スマートシティ,Cyber Physical System(CPS),仮想未来都市,バックキャスティング
都市をはじめとする物理空間に加えてサイバー空間にも広がる21世紀の我々の生活においては,サステイナビリティが課題とされる.地球環境保全のためのCO2排出削減(カーボンニュートラル)は,ものの過剰生産/過剰消費からの脱却という課題をサイバー空間・フィジカル空間の違いを問わず問いかける.物理空間での生活においては,様々な産業セクターにおいて大量生産/大量消費,fast-○○といった20世紀型モデルからの脱却とサステイナブルモデルへの移行が進行中であるが,サイバー空間においても同じ課題は存在する.ICT/AI関連分野での消費電力増加は続いており,安易に大量の情報を生産し消費する「fast-data」からの脱却は急務であり,そこでは20世紀型コンピューティングにおける高速化,大容量化という尺度へ単純に「省電力性」を加えるのではなく,「有限な資源を用いてどれだけ人々の便益/行動変容に資する情報を創出できるか」という,人や社会の便益/行動に照らし合わせた「情報の質」が問われる.
スマートシティにおいても,収集,処理/解析,還元から成るCyber Physical System(CPS)の枠組みでの,データを生み出すセンシングを起点とする典型的なアプローチから,データへのそもそものニーズを起点とした考え方への転換(若しくは回帰)が望まれる.そしてその転換にはCPSの各コンポーネントにおけるより進んだ人間とAI(より厳密には人間,計算機,AIの3者)の協働によるアプローチが有望である.
物理空間の事象に関する情報をデータとして取り出し,サイバー空間内に作り出すディジタルな複製を「ディジタルツイン」と呼ぶが,ディジタルツインは必ずしも今現在の現実のデータに基づく複製である必要はない.現実に基づかない仮想的な状況を示すデータ,例えば人が未来に実現を望む未来の状態(「Kira-Verse」と呼ぶ)や,逆に実現を回避したい悲惨な状態(「Yet Another-Verse: YA-Verse」と呼ぶ)を,データとしての「仮想未来都市」(Future-Verse)として創造することが可能である(図1).Future-Verseを基に,現実との差分を計算してそのような仮想的状況の実現や回避への方策を導出したり(バックキャスティング),現実の人や都市に対して情報フィードやアクチュエーションを適用的に行いCPSを駆動させることで,現実空間の状態をFuture-Verseのそれへ向けて次第に遷移させ「現在都市の未来化」を図る.このように仮想未来都市をゴール状態として駆動するCPSをバックキャスティングCPSと呼ぶ(1).筆者らは現在,国立研究開発法人情報通信研究機構によるBeyond 5G研究開発促進事業「ShonanFutureVerse:仮想都市未来像にもとづく超解像度バックキャスティングCPS基盤」にて本研究を実施している.本稿では以降,街の未来を描くための人間・AI協働,街の今を獲得するための人間・AI協働,及び街を未来化するための人間・AI協働についてそれぞれ紹介する.
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