特集 8. 宇宙分野における人とAIの協働

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特集8. 人とAIの協働
宇宙分野における人とAIの協働
Challenges of AI in Space Development
堤 誠司 橋本真太郎

堤 誠司 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構研究開発部門

橋本真太郞 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構研究開発部門

Seiji TSUTSUMI, Nonmember (Research and Development Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency, Sagamihara-shi, 252-5210 Japan) and Shintaro HASHIMOTO, Nonmember (Research and Development Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency, Tsukuba-shi, 305-0047 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.5 pp.429-437 2024年5月

©2024 電子情報通信学会

abstract

 宇宙開発ではミッションの複雑化に伴い,従来の人間を中心とした運用から自律化へのニーズが高まっている.自律化を実現する上でAIは鍵を握る技術であり,宇宙航空研究開発機構では特にその応用に焦点を当てた研究を進めている.深層学習を使用した衛星画像からの船舶識別,スペースデブリの位置推定,また再使用ロケットエンジンの健全性予測及び管理に関する研究事例を紹介するとともに,AI利用における課題の一つである学習データ不足に対し,数値シミュレーションを用いたデータ生成やドメインシフトの抑制について解説する.

キーワード:ロケット,宇宙機,自律化,画像認識,PHM

1.は じ め に

 近年の宇宙開発では,月Gateway計画や深宇宙探査,地球周回軌道上のコンステレーション衛星計画など,従来からの人間による運用では限界が出てきており,自律化へのニーズが高まっている.ここで,自律化とは不確実な環境との相互作用の中で,人間の介入なしに与えられたタスクを単独で実行する能力と定義される.

 本特集で中心の話題であるAIは,自律化を実現する上で魅力的な技術であり,宇宙航空研究開発機構(JAXA)でもAIの利用に関する研究が行われている.近年のAIはデータ駆動形手法が中心で,大量のデータを使った教師あり学習である.しかしながら,データ駆動形のAIを宇宙開発で利用する上では,大きく二つの障壁がある.

 (A)打上げ回数が限られることから,学習データが不足.

 (B)ロケット,宇宙機はミッションクリティカルシステムであり,ブラックボックスなAIには高い信頼性が求められる.

 その結果,残念ながら,他業界に比べてAIの利用は限定的である.また,自律化を目指しているものの,自動化にとどまっている.

 本稿ではJAXA研究開発部門第三研究ユニットにて行っている,AIの活用事例を紹介する.また,上記の課題(A)に関して進めている研究例も紹介する.課題(B)に関しても画像認識を中心に研究を進めているが(1),誌面の都合上,今回は割愛する.

2.衛星画像からの船舶識別(2)

 船舶には船舶自動識別装置(AIS)が設置されているわけだが,AISの設置義務は一定の条件を満たす大型船舶に限られているため,小型船舶に設置されることは少ない.また,密漁や密輸等を目的とした不審船や軍用艦船などもAISを設置していない,または設置しているが航行情報を発信していない場合がある.このため,AISだけでは完全な海洋状況把握は困難である.我が国は海洋大国として,海洋資源の保護及び海上の安全航行を確保するため,AISに頼らない海洋状況把握が特に必要とされている.そこで,我々はSynthetic Aperture Radar(SAR)と呼ばれる全天候型衛星搭載レーダからの船舶監視を目的に研究を進めている.


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