特集 10. 水産養殖分野における人とAIの協働

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特集10. 人とAIの協働
水産養殖分野における人とAIの協働
Human-AI Collaboration in Aquaculture Farms
高橋康輔

高橋康輔 ウミトロン株式会社

Kosuke TAKAHASHI, Nonmember (Umitron Pte. Ltd., Tokyo, 141-0022 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.5 pp.444-449 2024年5月

©2024 電子情報通信学会

abstract

 水産養殖は食糧問題や環境保護などの社会問題を解決するアプローチとして大きな注目を集めている.一方生産現場には現在も数多くの課題があり,特に給餌の省力化・省人化に関する要望は大きい.この課題に対し,我々はAIを用いて魚の摂餌状況を分析し,給餌を自動制御するスマート給餌機を開発している.本給餌機を導入することで,従来では実現が困難であった働き方や生育方法が可能になったという報告がある.また,給餌のほかにも様々な観点でAIの活用が進んでおり,水産養殖は今後も成長が大きく期待できる分野である.

キーワード:水産養殖,AI,IoT,魚群解析,自動給餌制御

1.は じ め に

 水産養殖は,世界の人口増加に伴うたん白質の供給源不足や,乱獲に伴う持続可能な海洋資源の現象といった社会問題を解決するアプローチとして,現在世界的に大きな注目を集めている.水産養殖は生産の安定性や環境に与える負荷の小ささを背景に,この10年で漁業の生産量を上回るなど急成長を遂げており(1),その勢いは衰えを見せない.

 しかしながら,水産養殖の生産現場には様々な課題が存在する.国内の生産現場では従事者が担当する業務量の増加,養殖従事者の高齢化・減少,及び過剰給餌による環境負荷などが問題視されている.これらを解決するため,現在国内ではICT・IoT・AIなどの情報技術やドローン・ロボットなどを利用した「スマート水産業」によって生産活動の効率化や省力化や生産性を向上させる動きが見られる(1).昨今では企業や大学が地域の生産者と連携して各技術の実証実験を開始し,一部は既に製品化され実用化が進んでいる.

 現在,我々は生産活動の中でも特に関心の大きい給餌の省人化・省力化に関し,AI機能を搭載したスマート給餌機であるUMITRON CELL(以下,CELL)を開発し,生産者に提供している.本稿では,このCELLの概要を説明するとともに,実際の活用事例を通してCELLによって生産現場での業務がどのように変化したかを紹介する.更に,生産現場で利用されているその他のAI技術についても触れ,水産養殖における人とAIの協働の現在及びこれからについて解説する.

2.生産現場での課題

 水産養殖の生産現場において給餌は最も重要な作業の一つである.給餌は養殖魚の成長に対して大きな影響を与えるだけでなく,その金銭・作業コストは生産に関わるコストの大部分(注1)を占める.この給餌作業に関し,現在生産者の多くは図1に示すように各生けすに船を着けて手や機械で餌を噴射する方式(図1(a))や,タイマー式の給餌器(図1(b))を採用している.

図1 給餌をする様子

 生けすに直接船を着けて給餌を行う方法は餌への食いつきを直接確認しながら給餌を行うことができるため,そのときの魚の食欲に応じた給餌が可能である.一方,保有する生けすの数が数十を超える生産者では全ての生けすに同様の給餌を行うことは作業コストが非常に大きい.タイマー式の給餌機では作業コストを抑えられる一方,食いつきを確認しながらの給餌ができないため,不十分な給餌や過剰な給餌が発生するなど魚の成長阻害及び金銭コストや環境負荷の増加が発生する.そのため,少ない作業コストで過不足のない適切な量の給餌を実現すること,すなわち給餌の省力化・省人化は生産現場において非常に重要な課題であった.


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