特集 13. 人とAIとの協働に伴うAI倫理・リスク検討に必要な視点

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特集13. 人とAIの協働
人とAIとの協働に伴うAI倫理・リスク検討に必要な視点
Human-AI Collaboration Perspectives Necessary for AI Ethics and Risk Considerations
加藤尚徳 鳥海不二夫

加藤尚徳 正員 (株)KDDI総合研究所シンクタンク部門

鳥海不二夫 正員 東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻

Naonori KATO, Member (Future Design Division 1, KDDI Research, Tokyo, 105-0001 Japan) and Fujio TORIUMI, Member (School of Engineering, The University of Tokyo, Tokyo, 113-8656 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.5 pp.462-466 2024年5月

©2024 電子情報通信学会

abstract

 人とAIとの協働に伴うAI倫理やリスクを検討する上では,AIを取り巻く制度環境を無視することはできない.本稿ではこれらの議論を概観し,現在,社会としてどのような視点でAIの倫理やリスクが捉えられようとしているのかを確認する.国際環境において検討がなされているAIに関する制度を参照しつつ,AIとの協働に必要な視点を検討する.その上で,社会においてより良いAIとの協働を実現するためにこれからの議論に求められる規制の在り方,工学と法学の壁を越えた検討の必要性を示す.

キーワード:AI,協働,規制,国際動向

1.は じ め に

 人とAIとの協働に伴うAI倫理やリスクを検討する上では,AIを取り巻く制度環境を無視することはできない.昨今,AIを取り巻く制度環境は国際的にも議論が活発化してきている.本稿ではこれらの議論を概観し,現在,社会としてどのような視点でAIの倫理やリスクが捉えられようとしているのかを確認する.その上で,AIとの協働という観点から,必要な視点を提案し,社会においてより良いAIとの協働を実現するためにこれからの議論に求められるものを検討する.

2.AIの制度に関する国際的な議論

 昨今,AIの制度に関する国際的な議論が活発化してきている.特に,欧州においては,EU域内で各国での国内法の整備を待たずに直接適用が可能な規則(Regulation)の整備が検討されている.また,米国,G7をはじめとした国際的な議論も活発化してきている.

2.1 EUにおける議論

 EUではウルズラ・フォン・デア・ライアン政権(2019年から2024年)においてディジタル戦略を掲げており,現在の政権における目玉政策の一つとしてAI法(AI Act)が位置付けられている.

 2021年4月21日,欧州委員会は“Proposal for a Regulation on a European approach for Artificial Intelligence”(以下,AI法)を公表した.AI法は比例的な(proportional)リスクベースアプローチを採用している.これはAIのリスクを,許容できないリスク,高リスク,制限されたリスク,最小化されたリスクの四つに分類し,更にリスクに応じて適合性評価等を求めるものである.このアプローチは技術開発の過度な制約を防ぐことができ,またAIソリューションを市場に投入するコストを過度に増加させたりすることはない,とされている.

 AI法に加えて,2022年9月,欧州委員会はProposal for a Directive on adapting non contractual civil liability rules to artificial intelligence(AILD)を公表した(1).欧州委員会は,信頼できるAIの構築に貢献する,相互に関連する三つの法的イニシアティブを提案している.それらは,①AIシステム特有の基本的権利と安全性のリスクに対処するためのAIのための欧州法的枠組み,②民事責任の枠組み:責任規則をディジタル時代とAIに適応させること,③分野別の安全法制(機械規則,一般製品安全指令など)の改正,である.欧州委員会の行動はAIに関する法的枠組みの提案を通じて,補完的で釣り合いのとれた柔軟な一連のルール形成を行い,AIの特定の利用によって生じるリスクに対処することを目的としている.また,これらの規則を制定することで,世界のゴールドスタンダードを設定する上で,欧州が主導的な役割を果たすことを目指している.この枠組みは,既存の国内法及びEU法ではカバーできない場合にのみ介入することで,AIの開発者,導入者,利用者が従うべきルールを明確にしている.


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