小特集 博士の進路

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.107 No.6 (2024/6) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


小特集

博士の進路

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 井口 寧

 博士号は,多くの国において教育体系の中で得られる学位のうち最高位のものであり,国際標準教育分類や欧州資格フレームワークなどにおいても最高位として定義されている.そのため,博士号の取得は,特定の学術分野に対して高度な専門性を有することの一つの客観的な指標となり得るが,一方で,その取得のための要件を満たすことは容易ではない.課程博士や論文博士など,いずれの博士号取得条件においても,論文発表や国際会議発表などを通して,客観的に重要な成果を学術分野に残すことが求められる.

 それでは,博士号の取得は人生のキャリアパスにおいてどのような影響を持つのであろうか.特定の資格とは異なり,博士号はその多様性から,キャリアパスに与える影響も多種多様であるように思われる.実際,どのような学術領域における博士号を志すのか,また人生のどのタイミングでその取得に注力するのか,そして取得した博士号をどのように活用するのかは各個人に委ねられていると言っても過言ではない.博士号を取得した後,アカデミックな職を求める場合もあれば,民間企業や国の研究所に勤める場合もあるであろう.また先述のとおり,博士号の取得のためには,人生のある一定の期間,特定の学術分野において極めて専門性の高い研究に打ち込む必要がある.人によっては,大学生として学士・短期大学士・修士の課程を経て自身の関心を見極めて博士課程に進むかもしれない.また,社会人経験を経て,改めて特定の学術領域に対する専門性を高めるために社会人博士を志している人もいるであろう.このように,極めて専門性の高い学術領域において特定の期間に深い研究活動を行う博士の性質上,その取得がキャリアパスに与える影響は一概に語ることはできず,各個人ごとに多種多様であると言わざるを得ない.

 本小特集は,将来博士号取得を志す中高生・大学学部生・修士学生・社会人の方々の将来設計の一助として頂くことを目指し,多様な経歴を持つ博士学位取得者の方々から御自身や周囲の方々の博士学位取得の体験談・就職活動・その後のキャリアパスについて御紹介頂いたものである.

 1章では,企業の研究所で活躍されている執筆者の体験と諸先輩へのインタビューを通して,博士号取得者が企業でどのように活躍されているのか,その事例を紹介頂く.執筆者御自身が企業に勤められたまま社会人博士として博士号を取得された際の実体験や,日本国内とは文化(博士号への認識)が異なる海外研究機関との連携の体験談などを交えて,克明に解説頂いた.

 2章では,博士課程取得後に国内外の大学・企業を経験された執筆者の体験談を紹介頂く.大学博士課程における研究と企業における研究活動文化の違い,研究成果の学会や社会への還元方法の違い,更に博士学位が実際に有効に働いた事例など,特に国際的なキャリアパスを構築する際に大事だと感じられたことについて解説を頂いた.

 3章では,民間企業にてコンピュータビジョンの研究に従事されている執筆者から,博士課程における量子アルゴリズムの研究から企業研究職に至るまでの経緯や,その考え方の変遷を体験談として紹介頂く.専門性の高い博士課程の研究テーマを追求された先に見いだすことのできる多様な研究について,執筆者の内面を言語化して頂きながら解説頂いた.

 4章では,当該分野の国立研究開発法人に従事されている執筆者の体験談を紹介頂く.国立研究開発法人における日々の業務・就職活動体験談,そして入社以降の期間別に環境の変化や,御自身の航空管制用システムの研究を解説頂きながら,博士号取得者が持ち得るキャリアパスの多様性に対する一事例をお示し頂いた.

 5章では,社会課題の解決を目指し日本でも数の少ない(3組織)特定国立研究開発法人で活躍されている執筆者の体験談を通じて,博士課程における研究と就職先の選定理由,就職活動における苦労や現在の業務において博士学位が役に立つと感じられた場面を紹介頂く.また,実際に執筆者の研究の変遷についても解説頂いた.

 最後に,多忙な折,執筆に御尽力頂いた執筆者の皆様に感謝申し上げます.また,小特集編集チームの皆様には執筆候補者の提案・調整や校閲などに御協力頂きました.この場をお借りし,感謝申し上げます.

小特集編集チーム

 井口  寧  中野 允裕  伊藤  聡  大辻󠄀 太一  川喜田佑介 


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。