小特集 5. 国立研究開発法人での博士のキャリアパス

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博士の進路

小特集 5.

国立研究開発法人での博士のキャリアパス

Ph.D Careers in National Research Institutions

工藤将馬

工藤将馬 国立研究開発法人産業技術総合研究所健康医工学研究部門

Shoma KUDO, Nonmember (Health and Medical Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Takamatsu-shi, 761-0395 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.6 pp.507-509 2024年6月

©2024 電子情報通信学会

1.は じ め に

 自身の将来のキャリアプランを構想する際,博士学位の取得を重要な選択肢として考える者は決して多くはない.筆者が学生であった頃も,同級生の多くは大学卒業後に一般企業等への就職を選び,約20名が博士課程前期課程(修士課程)に進学したが,後期課程(博士課程)に進んだのは僅か3名であった.博士課程に進学しなかった多くの学生は,研究者以外の分野で充実したキャリアを歩んでいると思われる.しかしながら,その一方で,研究への興味を持ちながらも十分な情報が得られず,博士号取得後のキャリアに対する不確実性から進学を断念した者も少なからずいたのではないかと思われる.

 本小特集が企画された目的でもあるように,博士学位の取得を目指す者やその可能性を模索している者にとって,博士学位取得後のキャリアに関する情報は,博士課程への進学を決断する上で重要な判断材料になると考えられる.反対に博士学位取得者の現況を知ることで進学を断念する者も増えるかもしれないが,この類の情報が十分に手に入れば,より納得のいく決断が可能になることは間違いない.

 そこで本稿では,筆者がこれまでに行ってきた研究活動や体験談を通じて感じたことなどを紹介する.自身の経験談を共有することで,博士学位取得に関する読者の不安や疑問を解消する助けとなれば幸いである.また,産業技術総合研究所(以後,産総研)などに代表される特定国立研究開発法人で研究業務に従事する研究者の体験談は,本稿の寄稿者の中で筆者特有のものであり,業務内容について紹介することも有意義であると考えている.

2.これまでの研究活動

 筆者は立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科で修士及び博士号(スポーツ健康科学)を取得した後,産総研の運動機能拡張研究センターで2年間の博士研究員(ポスドク)期間を経た後,令和5年度から現在まで,同研究所の四国センター運動生理学・バイオメカニクス研究グループにて常勤研究職員として研究業務に従事している.また,博士課程及びポスドク時代には,日本学術振興会の特別研究員(DC及びPD)として採用された.

 筆者が専門としている研究分野はバイオメカニクスである.バイオメカニクスは,人をはじめとする生物の運動の制御メカニズムを,生理学及び力学の観点に立って解明する研究分野である.その中でも筆者は,「起きる」・「立つ」・「歩く」などに代表される人の日常生活動作の制御メカニズムを解明することに取り組んでいる.具体的には,一般的なカメラや動作解析システムなどを用いて計測した身体動作からその原因となる神経・筋特性を探ることや,コンピュータ上で人の筋骨格モデルを作成し,そのモデルの神経や筋特性に介入を施した際の介入効果(身体動作)を評価する研究を行っている(図1).これらの研究手法を用いることで,結果として観察された動作からその運動メカニズムを確立することや,確立された運動メカニズムへの介入効果を検証することが可能となる.これらの研究によって得られた知見を活用することで,人の運動能力の向上と健康寿命の延伸に効果的な介入方法を確立することを目指している.

図1 これまでの研究の概要  計測した身体動作からその原因となる神経・筋特性を探ること(左)や,コンピュータ上で人の筋骨格モデルを作成し,そのモデルの神経や筋特性に介入を施した際の介入効果(身体動作)を評価する研究を行っている(右).これらの研究によって得られた知見を活用することで,人の運動能力の向上と健康寿命の延伸につながる効果的な介入方法を確立することを目指している.


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