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解説
トポロジカルフォトニクス
Topological Photonics
A bstract
光学とトポロジー,一見関係のないように見える二つの分野が,物性物理学を介して融合することで誕生したのが,“トポロジカルフォトニクス”というフォトニクスの新しい研究領域である.トポロジカルエッジ状態などの特殊な光状態の実現とその応用を目指す研究分野であり,近年では集積フォトニクスのプラットホームでの研究も盛んになっている.本稿では,トポロジカルフォトニクスの概略を紹介するとともに,集積フォトニクス技術への応用可能性という視点から,その魅力と課題について解説する.
キーワード:トポロジー,フォトニック結晶,光導波路,集積フォトニクス
トポロジーとは“もの”の形を大局的に扱う数学の一分野であり,日本語では位相幾何学と呼ばれる.何だか難しそうだと思われたかもしれないが,本誌の読者にはネットワークトポロジーやトポロジー最適化などの用語でなじみがあるのではないだろうか.
トポロジーの考え方は,物理学の様々な分野にも顔を出す.その一つが物性物理学であり,トポロジーの考え方が新たな物質群の発見とその活用に大きな役割を果たしている.2016年のノーベル物理学賞が関連の内容に与えられたことで記憶されている読者も多いかもしれない.ある種の絶縁体では,トポロジカルエッジ状態と呼ばれる特殊な表面状態が存在する.この状態は,材料の凹凸や欠陥の影響を受けず一方向に電子を輸送することができるため,超低消費電力エレクトロニクスやスピントロニクスへの応用が期待されている.このトポロジカルエッジ状態の存在は,電子バンド構造のトポロジカルな特徴(バンドトポロジー)に起因する(例えば文献(1),(2)など).
物性物理学で発展してきたバンドトポロジーの考え方がフォトニクスに導入されることで誕生したのが,トポロジカルフォトニクスと呼ばれる研究分野である.結晶中での電子と同様に,フォトニック結晶(PhC: Photonic Crystal)などの周期的光学構造中の光の振舞いは,フォトニックバンド構造によって記述される.であれば,バンドトポロジーに起因する光のトポロジカルエッジ状態があっても不思議ではない.実際,特定の条件下では,光トポロジカルエッジ状態が現れる.例えば,異なるバンドトポロジーを有する二つの二次元PhCを接合するとその界面に光トポロジカルエッジ状態が現れる(詳細は4.以降を参照).このエッジ状態は構造欠陥や界面の曲がりがあっても光を高効率に伝送することから,光導波路としての活用が期待されている.
本稿では,トポロジカルフォトニクスの概要,集積フォトニクス技術への応用可能性という視点から,その可能性と課題について解説する.理論的扱いや専門性の高い内容については文献(3)などを参照頂きたい(注1).
トポロジカルフォトニクスは,3.で紹介するように2000年代後半に誕生した新しい研究領域である.一方,トポロジーの視点から光の諸現象を扱う研究には長い歴史があり(4),光の位相や偏光の空間分布に現れる渦状構造を対象に進展してきた.
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