解説 分布振動計測を用いた光ファイバ環境モニタリング

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 解説 

分布振動計測を用いた光ファイバ環境モニタリング

Optical Fiber Environmental Monitoring by Distributed Acoustic Sensing

脇坂佳史 井上雅晶 高橋 央 飯田大輔 古敷谷優介

脇坂佳史 正員 日本電信電話株式会社NTTアクセスサービスシステム研究所

井上雅晶 高橋 央 飯田大輔 古敷谷優介 正員 日本電信電話株式会社NTTアクセスサービスシステム研究所

Yoshifumi WAKISAKA, Masaaki INOUE, Hiroshi TAKAHASHI, Daisuke IIDA, and Yusuke KOSHIKIYA, Members (NTT Access Network Service Systems Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Tsukuba-shi, 305-0805 Japan)

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.6 pp.516-521 2024年6月

©2024 電子情報通信学会

A bstract

 高速大容量通信を支える光ファイバの点検診断方法として,パルス試験光を用いて取得した光ファイバ中の散乱光強度から損失分布を計測するOTDRが実用化されている.OTDR構成を踏襲しつつ散乱光の位相を測定する位相OTDRは,光ファイバに加わった振動を分布的に計測できる.分布振動計測技術により光ファイバ通信網をセンサ網として利活用すれば,その周囲の様々な環境情報をモニタできる.本稿では,はじめに損失分布計測から分布振動計測に至る計測技術の展開,続いて分布振動計測の原理・改良動向や光ファイバ環境モニタリング確立に向けた取組みを解説する.

キーワード:OTDR,位相OTDR,損失分布計測,分布振動計測,環境モニタリング

1.は じ め に

 光ファイバを媒体とした高速大容量通信は広く普及しており,国内におけるFTTH(Fiber To The Home)の世帯カバー率は99%を超える(1).光ファイバは様々な要因で断線だけでなく光損失・反射増加の異常が発生し,通信サービスに影響を与える.光ファイバ一心一心に対して光損失の程度や反射の有無,それら発生箇所を点検診断する技術は通信事業者には欠かせない(2)

 通信局舎から遠隔で光ファイバの光損失・反射分布(以降,光損失分布と呼ぶ)を計測する手法にOTDR(Optical Time Domain Reflectometry)がある.図1に示すように測定装置から試験光を光ファイバに入射し,その伝搬に伴い発生する後方散乱光を入射端手前に設置した光サーキュレータで別光路に導き,光強度をモニタする.パルス試験光の出射と光強度の受光との時間差から光ファイバ上の距離を計算して分布計測する.試験光を入射した時刻を原点とすれば,時刻mathで受光した光強度は,入射端から距離mathまで試験光が伝搬し散乱された後方散乱光の強度に対応する.ここで,mathは光ファイバの屈折率,mathは真空中の光速である.

図1 OTDRによる光損失分布計測  パルス試験光を用いて損失等の程度や発生個所を測定する.

 OTDRは通常レイリー散乱光を検出する.これは,光ファイバ中の不純物や構造揺らぎにより各地点でレイリー散乱が自然に生じるため光ファイバ自体に手を加える必要がなく,他の散乱現象と比較しても散乱光強度が大きいためSN比が高く測定できるためである.

 据え置き型OTDRが通信局舎に配備され遠隔試験で利用されており(2),ポータブル型OTDRも国内外の複数メーカがラインナップしている.これらの多くが散乱光を直接検波し光強度を測定しているが,コヒーレント検波構成も検討され海底ケーブルモニタ用等で実用化されてきた(3),(4)

 また,OTDRを応用したその他異常検知技術も創出されてきた.例えば,マンホール内クロージャへの浸水検知である(5).通信用光ファイバはケーブル化され,地下区間では複数のマンホールを通過するが,その内部には光ファイバ接続点を内包するクロージャがある.マンホールに水がたまり,クロージャに浸水すると,接続点で異常に至る可能性がある.浸水の早期検知のため,保守用光ファイバ(通信用光ファイバとルートを共有するが保守用として通信事業者が管理している光ファイバ)の傍らに水を吸収して膨張する素材を置くモジュール構成が実際の保守業務で使用されている.浸水すると素材が膨張して保守用光ファイバを曲げるが,光ファイバは一定の曲率以上で曲がると明確な光損失を示すので,それをOTDRで検出する.このような保守業務の高度化も進められてきた.


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