名誉員推薦

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Vol.107 No.7 (2024/7) 目次へ

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名誉員推薦(写真:敬称略)

写真:荒川泰彦

荒 川 泰 彦

推 薦 の 辞

 荒川泰彦君は,1980年に東京大学大学院工学系研究科電気工学専門課程博士課程を修了し工学博士の学位を取得した後,直ちに東京大学生産技術研究所に講師として着任されました.翌年には同・助教授,1993年には教授に昇任され,2018年に定年退職をお迎えになられました.その間,東京大学において先端科学技術研究センター教授,ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構長などもお務めになられました.現在は,東京大学特任教授として研究活動を続けられるとともに,京都大学特任教授なども兼任されています.

 同君は,1982年に半導体中の電子を完全に閉じ込める「量子ドット」の概念とそのレーザへの応用を世界に先駆けて提案されました.その後,半導体量子ドット形成技術の開発を進め自身が提案した量子ドットレーザを実現するとともに,産学連携研究を通じてその実用化に多大な貢献をされました.更に,高い温度安定性,高い戻り光耐性などの特徴を有する量子ドットレーザは,光電子融合技術における光源としても適している点をいち早く指摘され,その光回路応用の可能性を開かれました.一方,多数の量子ドットを活性層に用いる量子ドットレーザの研究のほか,単一の量子ドットを用いた極限光源の開拓にも取り組まれました.単一量子ドットレーザの実現,光通信波長帯単一光子発生器の実現とその長距離量子暗号通信への応用など,ナノ量子フォトニクス分野において重要な成果を数多く上げられました.同時に,量子井戸や量子ドットなどの半導体低次元構造における光電子物性の基礎研究も広く展開されました.特に,固体共振器量子電気力学という量子エレクトロニクスの一大分野の端緒となった,半導体微小共振器における共振器励起子ポラリトン効果の観測は,量子ドットレーザの提案と並んで,同君の代表的成果として知られています.

 同君の研究業績は国際的に極めて高く評価されており,藤原賞(2007年),紫綬褒章(2009年),IEEE David Sarnoff賞(2009年),C & C賞(2010年),Heinrich Welker賞(2011年),日本学士院賞(2017年),IEEE Jun-Ichi Nishizawaメダル(2017年),URSI Balthasar Van der Pol Goldメダル(2023年)等,国内外の著名な賞を数多く受けられるとともに,全米工学アカデミー外国人会員にも選出されていらっしゃいます.また,幾つもの大型国家プロジェクトを主導し,関係分野の発展をけん引されるとともに多くの後進研究者を育成されました.更に,日本学術会議・第三部の部長や国際光学委員会・会長,文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラムディレクター,JST-CREST研究総括など,数々の政府関係の委員,国内外の学協会の要職を歴任され,分野を超えて広く理学・工学の進展,学会や産業界の発展に多大な貢献をされています.これらの学術的成果,学術・産業界への貢献に対して,同君は2023年に文化功労者に選出されています.

 以上のように,同君の電子情報通信分野,特に光・量子エレクトロニクス分野における貢献は極めて顕著であり,本会名誉員として推薦します.

区切


写真:上田修功

上 田 修 功

推 薦 の 辞

 上田修功君は,1982年に大阪大学工学部通信工学科を卒業後,1984年に大阪大学大学院通信工学専攻修士課程を修了され,同年に日本電信電話公社(現NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.1991年にNTTコミュニケーション科学研究所主任研究員,1992年に大阪大学から博士(工学)の学位を授与され,1993年米国パデュー大学客員研究員,1997年カナダトロント大学招聘研究員,1999年英国ロンドン大学招聘研究員を経て,2010年から2013年までNTTコミュニケーション科学基礎研究所所長を務められ,2013年から2016年までNTT機械学習・データ科学センタ代表,2016年から2023年までNTTコミュニケーション科学基礎研究所上田特別研究室長(NTTフェロー)を歴任され,現在は理化学研究所革新知能統合研究センター副センター長及び,NTTコミュニケーション科学基礎研究所客員フェローとして活躍されています.

 同君は,現在の人工知能の基盤技術と位置付けられる機械学習研究がれい明期にあった頃から,統計的学習理論とパターン認識の応用に関し先駆的な業績を上げ,その学術発展に大きく貢献してこられました.具体的には,統計的機械学習の学習法として広く用いられているEMアルゴリズムの局所最適性に関する理論とアルゴリズムを考案し,多様な実データを数理的にモデル化する上での課題であるパラメータ推定問題において,その品質を著しく向上しました.更にWeb上のテキストのように,一つの文書が複数のクラス(トピック)から成る場合での多重分類問題を定式化することにより,世界初の多重トピックテキストモデル(パラメトリック混合モデル)を考案し,大規模データに潜む特徴的な複数のトピックを同時かつ高精度に抽出する技術を確立しました.更に,音声認識で広く用いられる隠れマルコフモデルの世界初のモデル自動獲得学習法を確立し,近年主流となっているベイズ学習に基づく最適モデル決定手法の礎を築きました.また,機械学習に基づく時空間データ解析のための人流予測技術を考案し,実サービスに供しています.

 内閣府最先端研究支援プログラムFIRSTでは,加速度センサからの看護師行動自動認識技術を考案し,従来技術の認識性能を著しく改善したほか,病棟に蓄積されていた実看護行動履歴約900万行動を対象に看護師行動種とその所要時間と患者重症度との関係など,業務分析上重要な統計情報を抽出する世界初の試みを成功させ,ICTによる保健医療ビッグデータ分析の道を開きました.また,JST CREST受託研究での希少データからの学習法による超新星自動検出や,NICT受託研究での時空間統計分析に基づく最適人流誘導にて最高評価を受けたほか,2016年9月に理化学研究所革新知能統合研究センター副センター長に就任後は,医療分野,防災・減災分野など自然科学,社会科学への機械学習応用において重要成果を創出しました.また同君は,2019年度からJST CREST数理的情報活用基盤の研究総括に就任し,数学と情報の融合研究を先導しています.

 同君は,以上の功績により,本会論文賞,フェロー,業績賞,本会情報・システムソサイエティ活動功労賞のほか,文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門),電気通信普及財団賞等を受賞されています.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における学術貢献は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

区切


写真:齋藤洋

齋 藤  洋

推 薦 の 辞

 齋藤 洋君は,1983年に東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻修士課程を修了され,同年4月に日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)基幹交換研究部に入所されました.1992年に同大学にて博士号を取得,1994年NTT通信網総合研究所特別研究員,2010年NTTサービスシステムインテグレーション基盤研究所上席特別研究員を経て,2018年東京大学大学院情報理工学系研究科教授,2023年4月から実践女子大学特任教授,東京大学情報理工学系研究科名誉教授として現在に至っておられます.

 同君は,日本電信電話公社に入社以来,一貫して情報通信分野の研究開発に従事され,トラヒック技術に関する数々の優れた成果を上げられ,先駆的な理論・方式の創出や普及推進を通じて情報通信サービスに革新をもたらしてこられました.

 特筆すべき功績は,トラヒックの多様化に対応し,トラヒック研究の新たな方向性を世界に先駆け提唱したATMネットワークのトラヒック技術に関する研究開発で,従来の電話トラヒックのランダム性を前提とする理論モデルでは対応できない,様々なアプリケーションが加わるブロードバンドネットワークの研究開発において,いち早く新たな手法であるノンパラメトリックアプローチ(パラメータ化したモデルを用いない方式)を提唱し,新たな研究の流れを導きました.これらの研究業績において,同君が提案・構築してきた理論モデルは,常に実システムに関するものであり,応用数学に基づく理論を実システムの方式設計・制御・管理,並びに通信ネットワークの総合的な設計・制御・管理に反映し,トラヒック技術の研究と応用を実践してこられました.

 更に,既存のトラヒック理論が時間軸上の確率過程論を適用し,個別システムに適用するための拡張であったところ,社会ネットワークを含むネットワークの空間的構造と性能関係等を明らかにし,ネットワークの設計・制御・情報の集約に関わる知見を得るネットワーク科学理論や空間情報数理応用の分野をけん引してこられました.

 同君は上記の業績により,1994年電気通信普及財団賞システム科学奨励賞,1998年日本OR学会文献賞,2003年情報処理学会DICOMO2003野口賞,2008年本会通信ソサイエティ功労顕彰状,2009年電気通信普及財団賞 テレコムシステム科学賞,2016年ACM MSWiM conference best paper award,2020年Arne Jensen Lifetime Achievement Award等を授与されており,これらの功績が移動通信関連の産業界,学術界へ大きく貢献していることが認められています.加えて,本会では,2006年情報ネットワーク研究専門委員会委員長,2008年評議員,2011年編集理事を務め,2006年フェローの称号,2023年功績賞を授与されました.また,2003年日本OR学会フェロー,2005年IEEE fellowの称号も授与されておりその活躍は各界で認められています.

 以上のように,同君は,理論研究並びに実用化を通じて世界トップレベルの多くの研究成果を続出し,情報通信分野への功績は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

区切


写真:永妻忠夫

永 妻 忠 夫

推 薦 の 辞

 永妻忠夫君は,1986年に九州大学大学院工学研究科・博士課程を修了後,1986年に日本電信電話株式会社(NTT)に入職されました.1996年に主幹研究員,1999年に特別研究員,2002年にグループリーダを経て,2007年に大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻の教授に着任されました.

 同君はNTT研究所において,長年にわたりミリ波・テラヘルツ波領域の超高周波信号計測システムの研究開発に取り組まれ,電気光学サンプリング法による非じょう乱超高速電気信号計測システムの開発に成功し,開発した技術はLSI回路信号計測装置として実用化されました.また,無線通信システム分野において,テラヘルツ信号の発生・検出に光技術を使用したテラヘルツ無線システムの研究開発を実施し,120GHz帯において世界最高となる通信速度を達成するなど,テラヘルツ無線研究の先駆的役割を果たしました.更に,放送局と連携して非圧縮ハイビジョン信号多重無線伝送装置を開発し,北京五輪での生中継などに使用されました.非破壊計測分野では,電波の透過性を生かした高解像度の非破壊イメージング技術の開発に取り組まれました.特に,貼紙防止シート下に存在する電柱の微小ひび割れをミリ波イメージングにより非破壊で検知する技術はNTT東日本に電柱の点検技術として導入されました.

 大阪大学移籍後は,更なる高周波領域の開拓を実現すべく,300GHz超のテラヘルツ波を使用した超高速無線通信技術の開発に取り組まれました.共鳴トンネルダイオードや誘電体プラットホームを使用した新たなテラヘルツ波応用システムを開拓するとともに,世界最速の無線伝送に関する研究成果を次々と発信するなど,テラヘルツ無線通信分野をけん引し続けています.イメージング応用分野においても,テラヘルツ帯光コヒーレンストモグラフィーに世界で初めて成功するとともに,超高速でイメージング像の取得を可能にするテラヘルツ帯スキャナやドローンに搭載したミリ波レーダを開発するなど,多くの成果を上げられています.更に,2013年から2017年に大阪大学産学連携本部サイエンス・テクノロジー・アントレプレナーシップラボラトリー長,2017年から2019年まで同学産学共創本部共創人材育成部門長を務め,起業家育成や産学共創によるイノベーション人材育成のための教育組織のマネージメントに献身しました.

 学会活動としては,本会の研究専門委員会委員長を務められるとともに,調査理事,副会長を務められ,本会の運営,活性化に大きく貢献されました.また,多くの国際会議のプログラム委員長や学術ジャーナルの編集委員を歴任され,国際的な学会活動にも貢献されました.

 同君はこれらの研究への功績により,本会業績賞,功績賞,及び科学技術庁官賞,文部科学大臣表彰科学技術賞,大河内記念技術賞,前島賞,IEEE Andrew R. Chi Best Paper Award, Tatsuo Itoh Awardなど30を超える賞を受賞されました.また,本会並びにIEEE,EMAからフェローの称号を授与されています.更に,日本学術振興会学術システム研究センター専門研究員,NEDO研究評価委員会委員長,テラヘルツシステム応用推進協議会会長など数多くの要職を務め,我が国の科学技術の発展に大きく貢献しました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における功績は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

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写真:中野義昭

中 野 義 昭

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 中野義昭君は,1982年に東京大学工学部電子工学科を卒業後,1987年に同大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程を修了し,工学博士の学位を取得されました.同年に東京大学工学部電子工学科の助手に就かれ,1988年に講師,1992年に助教授,2000年に教授に昇任され,現在に至っております.この間,1992年から1993年までカリフォルニア大学サンタバーバラ校客員助教授,2002年から2013年まで東京大学先端科学技術研究センター教授,2010年から2013年まで同センター所長を歴任されました.更に2010年から東京大学総長室直轄寄附講座「太陽光を機軸としたグローバルエネルギーシステム」の共同代表を務められております.

 同君の研究業績は,分布帰還形半導体レーザの研究,半導体光スイッチ・ディジタル光デバイスの研究,モノリシック光集積回路の研究,化合物半導体エピタキシャル成長/プロセス技術の研究,高効率太陽電池の研究,ソーラー燃料の研究など多岐にわたっています.中でも,次世代フォトニックネットワークに適する高速・低電力光デバイスの実現に向けて,Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体に多数の光素子を集積する技術の重要性に一早く注目し,その基盤技術の構築に多大な貢献をされました.

 能動素子と受動素子の一体集積化に重要な面積選択有機金属気相エピタキシーのメカニズムを解明し,波長多重光通信に向けた多波長光回路を実証されたのをはじめ,光論理ゲート素子,電界吸収形光ロジック,全光フリップフロップなどの各種半導体ディジタル光処理デバイスや光非相反原理を応用した半導体光アイソレータなどの革新的な光集積回路を数多く提案され,実証されました.更にこれらの技術を駆使することで,100個以上の半導体光増幅器と光位相制御器をモノリシックに集積した大規模光スイッチ回路の試作実証に世界で初めて成功するなど,先駆的な成果を上げられております.

 大学における基礎研究にとどまらず,多数の国内有力企業が参画した産学連携プロジェクトにおいても卓越したリーダーシップを発揮され,これらの新規光デバイスの有用性を実証する光ラベル処理パケットルーチングのシステムデモンストレーションを成功に導くなど,次世代光通信分野の研究開発を強力にけん引されました.

 これらの業績が評価され,本会功績賞,同エレクトロニクスソサイエティ賞,応用物理学会光学論文賞,市村学術賞,産学官連携内閣総理大臣賞,櫻井健二郎氏記念特別賞,IPRM Awardなどを受賞されています.また,本会フェローに加えて,IEEEフェロー,Opticaフェロー,応用物理学会フェローの称号を授与されております.

 本会においては,レーザ・量子エレクトロニクス研究専門委員会,フォトニックネットワーク研究専門委員会,集積光デバイス技術時限研究専門委員会の各委員長,英文論文誌C編集委員長,エレクトロニクスソサイエティ会長,及び本会副会長を歴任されました.更に,応用物理学会理事,APEX/JJAP編集委員長,IEEE東京支部長,IEEE LEOS理事,日本学術会議第三部会員,同会議電気電子工学委員会委員長,エレクトロニクス実装学会会長などの要職を務められ,長きにわたって国内外の研究コミュニティの発展に貢献されてきました.

 以上のように,同君の本会並びに関連する学会・産業界の発展と,電子情報通信技術・半導体光集積技術の進歩に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


写真:松山泰男

松 山 泰 男

推 薦 の 辞

 松山泰男君は,1969年に早稲田大学理工学部電気工学科を卒業後,同大学院電気工学専攻博士課程に学び,1974年,神経系における確率的パルス密度変調の研究によって工学博士の学位を授与されました.また,同年,日本学術振興会・米国国際教育研究所・フルブライト交流事業の協同による日米人物交流計画に採用され,スタンフォード大学に派遣されて同大学院に学び,1978年,確率過程のひずみ測度理論及び信号処理への応用の研究によってPh.D.(EE)の学位を授与されました.

 同君は,スタンフォード大学情報システム研究所助手,茨城大学教授と博士課程専攻長を務め,1996年に早稲田大学理工学部教授(改組後,理工学術院教授)となり,2017年からは同大学名誉教授となって現在に至っています.この間,学外においてはアラバマ大学客員研究員,人事院上級職総合試験委員などの,学内にあってはメディアネットワークセンター所長などの要職を歴任されています.

 同君は「不完全データ(実データ)を構造化する機械学習理論の構築とそのデータサイエンスへの応用」により,先駆的な業績を上げています.ベクトル量子化の国内基本特許を成立させるなどこの技術を確立した後,その設計法を多目的かつ多重な最適化を可能にする一般化競合学習へと発展させました.またこれを基に,音声,静止画像やビデオ画像の生成と類似性検索,大規模巡回セールスマン問題への適用など,多様なデータ処理への応用を可能にしました.これらは,同君が前述の二つの博士課程において独立に修めた業績,すなわち,神経系における確率過程の解析と情報理論における高能率情報圧縮であるベクトル量子化を出発点として,それらを発展させた成果となっています.

 一般化競合学習を確率と統計の面から考えると,この機械学習アルゴリズムは,暗にデータが一様分布であることを仮定しています.ところが対象となるデータが多様で大きくなると,そのビッグデータには一様分布ではない分布の偏りが出現します.同君はこの偏りの利用可能な側面を捉え,従来法の理論的上位構造として「アルファ期待値最大化アルゴリズム」を創出しました.これを基礎として,ベクトル量子化やmath平均法を下部構造とする縦の階層を確立するとともに,横方向の一般化として隠れマルコフアルゴリズムや独立成分分析の高速手法も与えるなど,関連諸技術の体系化に成功しました.更に,この体系化の下で,音声・画像情報処理や脳信号による個人認証,更にはデータ評価者を更に評価するブロックチェーンなど,様々な応用をもたらしました.

 このような業績は,本会論文賞と功績賞,IEEE Neural Networks Best Paper Award,IEEE-ACM Dote Memorial Best Paper Award等の受賞と,本会フェロー,IEEE Fellow and Life Fellow,情報処理学会フェローの称号授与として認められています.また,同君は,本会東京支部評議員などを務めるとともに人事院上級職総合試験委員など数多くの国内要職を務め,更に世界の大学評価に関する職責も果たしています.

 以上のように,同君は電子情報通信工学に基づく科学技術の発展に顕著な貢献を果たしており,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し,推薦致します.

区切


写真:村岡裕明

村 岡 裕 明

推 薦 の 辞

 村岡裕明君は,1976年に東北大学工学部通信工学科を卒業後,1981年に東北大学大学院博士後期課程を修了されて工学博士の学位を取得されました.大学院修了後は松下通信工業株式会社に入社されフレキシブルディスク装置の研究開発に携わりました.1991年に東北大学電気通信研究所助手に採用され,助教授を経て2000年に教授昇進され情報ストレージ研究分野を担当されました.2010年から東北大学電気通信研究所附属21世紀情報通信研究開発センター長を併任され,研究と教育に多大な貢献をされました.2018年には東北大学名誉教授の称号を授与されています.

 同君は,東北大学電気通信研究所岩崎俊一研究室で発明されたばかりの垂直磁気記録に出会われ,その後40年を超える研究期間に一貫して垂直磁気記録とハードディスク装置への応用展開,更に情報ストレージシステムの研究に従事されました.磁気記録で最も重要な磁気ヘッドと磁気ディスクの高密度記録性能の向上に取り組まれました.垂直磁気ヘッドの磁極構造を根本から見直して記録性能を大幅に高め,当時として最も狭い記録トラック幅での記録を実証しました.垂直磁気ディスクについては,記録磁性層のナノサイズの微細磁気構造の解析から雑音を低減する手法を提案するなど,記録再生理論に基づいた高密度記録の研究を実践されました.更に,垂直記録ヘッドを実用的なハードディスク用浮上型ヘッドとして試作して優れた高密度記録性能と良好なエラーレート特性を実証されました.これは,垂直磁気記録の実用的な高密度記録性能を実験的に検証した成果であり,国際的な注目を集めるとともに従来の長手磁気記録から垂直磁気記録への転換の流れを加速しました.

 2005年に垂直磁気記録が実用化された後も,引き続き次世代高密度記録の研究に取り組まれ,ビットパターン型の斬新な垂直磁気記録媒体を用いて数倍以上の記録密度を達成できる可能性を明らかにされました.垂直磁気記録ハードディスク装置の大容量性能を生かした情報ストレージシステムの研究にも取り組まれ,省電力性能や耐災害性に優れた情報システムの技術開発を実施されました.

 同君はこれらの研究と社会貢献の業績によって,本会業績賞,本会エレクトロニクスソサイエティ賞,本会とIEEEのフェロー称号,日本磁気学会業績賞,日本放送協会放送文化賞を受賞されました.また,国内外の関連分野の学会や委員会の委員に就任され,電子情報技術の発展にも多大な貢献をされました.国内では文部科学省や経済産業省,日本放送協会などの公的機関の委員会や審議会の委員,本会をはじめ多数の学会等の役員を務められました.特に垂直磁気記録の産学連携研究拠点であった日本学術振興会磁気記録第144委員会では,岩崎俊一委員長の下垂直磁気記録国際会議を定期的に開催するなど御尽力されました.国際学会でも多くの委員会を歴任され,グローバル規模で学術界の発展に多大な貢献をされました.

 以上のように,垂直磁気記録を中心に情報ストレージシステム分野に至るまで電子情報通信分野の技術革新における同君の貢献は極めて多大であり,本会の名誉員の称号を贈るにふさわしいと確信し推薦致します.

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写真:村瀬淳

村 瀬  淳

推 薦 の 辞

 村瀬 淳君は,1981年早稲田大学理工学部電子通信学科を卒業し,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.2002年にはDOCOMO Communications Laboratories Europe GmbH社長,2007年に(株)NTTドコモ先進技術研究所(総合研究所)所長,2012年NTTマイクロシステムインテグレーション研究所所長,2013年NTT先端技術総合研究所所長,2015年にドコモ・テクノロジ株式会社取締役ソリューションサービス事業部長,2018年同常務取締役経営企画部長を経て,2023年に同特別参与に就任され,現在に至っておられます.

 同君は,日本電信電話公社入社以降,移動通信システム及びその端末技術の研究開発並びに普及拡大に尽力され,第3世代移動通信とも呼ばれる国際標準規格IMT-2000システムにおいて,高速で大容量な移動通信(W-CDMA)方式の実用化に貢献するなど,移動通信サービスに革新をもたらし,豊かなICT社会の創造にまい進してこられました.

 特筆すべき功績は,IMT-2000システムの開発における端末開発の責任者として,W-CDMA方式の技術開発を基地局開発と連携して行い,国際標準技術として採用に至らしめたことです.また,IMT-2000向けマルチメディア端末の開発においては,多様なマルチメディアに対応可能な動画像伝送機能を持つ携帯性に優れた端末を実現しました.更には,IMT-2000向けUIMカードの開発により,日本で初めてGSMと共通化されたSIM/UIMカードの開発・導入を行い,端末通信機能と加入者認証機能を物理的に切り離すことを実現し,以後の端末開発の拡張性を格段に高めました.これらの成果により第3世代移動通信は世界に先駆け日本で最初(2001年)にサービスが始まり,人々は音楽・映像配信サービスやTV電話などのマルチメディアサービスを移動中でも楽しむことができるようになり,情報通信が新たなステージに移りました.

 同君は,上記功績により既に2001年度本会第39回業績賞,2002年通信文化協会前島密賞,2008年文部科学省文部科学大臣表彰科学技術賞を授与されています.また,数多くの招待講演を受けているほか,国際会議のGeneral ChairやPublicity Chair,関連する重要な標準化団体であるARIBや3GPPでの標準化活動にも参画し,この分野の発展に大きく貢献しています.更には,2007年からはNTTドコモ先進技術研究所(総合研究所)所長として,モバイル空間統計などビッグデータ処理による新たな研究領域を開拓するとともに,2013年からはNTT先端技術総合研究所所長として,先端分野の研究所を統括し,物性科学/コミュニケーション科学の基礎研究,電子/光デバイス,伝送及びネットワークなどの幅広い分野において,世界をリードする成果創出を強力に推進しました.

 本会では,2009~2010年度の評議員や2012~2013年度の企画理事を歴任し,2013年から代議員に就任する等,役員として活動するとともに,内閣府ICTワーキンググループ構成員,総務省国立研究開発法人審議会専門員,先端融合領域イノベーション創出拠点プログラム諮問委員会委員を務める等,情報通信分野の発展への多岐にわたる功績は顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

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写真:横矢直和

横 矢 直 和

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 横矢直和君は,1974年に大阪大学基礎工学部情報工学科を卒業後,1979年に同大学院基礎工学研究科物理系情報工学専攻博士後期課程を修了され,同年電子技術総合研究所に入所されました.1983年からは電子技術総合研究所主任研究官を務め,1986年にマギル大学客員教授を経て,1993年に奈良先端科学技術大学院大学教授に就任され,コンピュータビジョン,バーチャルリアリティ,複合現実感の3分野とそれらの複合領域において国内外をリードする研究を推進してこられました.更に,2017年度から2020年度まで奈良先端科学技術大学院大学の学長を務め,既存の研究科の統合による組織間の垣根のない柔軟な研究教育体制の確立等に尽力されました.

 同君は1970年代から画像処理・コンピュータビジョン分野での研究に取り組み,特に,微分幾何学特徴に基づく三次元物体認識や,最適化原理に基づく超並列計算に適したコンピュータビジョンアルゴリズムに関して顕著な成果を上げました.また,大学への異動後は,コンピュータビジョンとバーチャルリアリティの境界領域に生まれた複合現実感にいち早く注目し,拡張現実感システムやテレプレゼンスに関する研究・教育に尽力するとともに,この新技術分野における日本の指導的役割を確立するために大きく貢献しました.

 コンピュータビジョンの分野では,いち早く三次元形状データ処理に着目し,現在では広く利用されるライダ(LiDAR)等の距離センサにより大量に取得される三次元点群データの分割や合成といった技術の基盤となる多くのアルゴリズムを提案されました.また,建物や地形といった屋外の大規模環境の三次元形状取得技術の基礎となる多くの研究成果を上げられました.例えば,現在広く利用されているフォトメトグラフィソフトの先駆けとも言える,数百の視点の画像群から屋外環境の三次元構築を行う技術では,既に20年以上前に優れた研究成果を上げられています.

 また,このような三次元復元技術を複合現実感に活用し,サイバー空間と物理空間をシームレスに融合提示するための数多くの研究成果を上げられました.特に両者の幾何学的整合性に加え,照明や物体表面の反射特性に起因する光学的整合性を実現する手法では,世界をリードする研究業績を上げられました.

 同君はこれらの研究の功績により,本会,情報処理学会,国際パターン認識連盟(IAPR)からそれぞれフェローの称号を授与されています.また,本会功績賞,立石賞(功績賞),情報処理学会論文賞(2回),国際会議ICIP 2013 Open Paper Award等を受賞されました.また,本会情報・システムソサイエティ副会長・会長,PRMU研究専門委員会委員長,情報処理学会CVIM研究会主査,日本バーチャルリアリティ学会理事・複合現実感研究会委員長を歴任され,本会をはじめとする関連分野の活性化を図るとともに,ISMAR2003実行委員長,ICCV2009プログラム委員長等を歴任され,国際的なリーダーシップも発揮されてきました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野,特にコンピュータビジョンや複合現実感・バーチャルリアリティ分野における功績は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

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