功績賞贈呈

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Vol.107 No.7 (2024/7) 目次へ

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第85回 功績賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第7条(電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著である者)による功績賞(第85回)受賞者を選定して,2023年度は次の5名の方々に贈呈した.

写真:阿部正幸

阿 部 正 幸

推 薦 の 辞

 阿部正幸君は,1990年に東京理科大学工学部電気工学科を卒業後,1992年に同大学大学院工学研究科電気工学専攻科を修了し,同年4月に日本電信電話株式会社(現NTT)に入社されました.2002年に東京大学にて博士号を取得され,1996年から1年の間,スイス連邦工科大学にて客員研究員として研究に従事されました.2003年から現所属の前身であるNTT情報流通プラットフォーム研究所にて特別研究員,その後NTTセキュアプラットフォーム研究所にてセキュリティ基盤研究グループリーダ,上席研究員を歴任し,2022年からNTT社会情報研究所阿部特別研究室長/NTTフェローとして活躍しておられます.また,教育活動につきましても,2013年に京都大学大学院客員准教授,2018年に同大学院客員教授として,学生の指導にも大きく寄与してこられました.

 同君は,30年以上にわたり暗号理論の研究に従事し,暗号研究分野の権威である国際暗号学会(IACR)の理事として世界的に著名な暗号研究者としての地位を築くとともに,国産暗号の普及展開に貢献しております.特に,同君は情報社会のセキュリティを支える電子署名技術の高機能化や効率化に対して多大な貢献があり,プライバシー保護機能を有する「ブラインド署名」や「リング署名」の実用化に大きく寄与しました.文書の一部を秘匿しつつ改ざん不可能な「部分ブラインド署名」を世界で初めて構成し,その後の各種ブラインド署名において標準的な機能として採用されています.リング署名は,署名者の匿名化機能を持ち,初期の仮想通貨において取引のプライバシー保護に使用されるなど,実社会に貢献する研究成果を生み出しています.また,同君が開拓した「群構造維持暗号系」は複数の暗号技術を相互接続して簡単かつ安全に開発できるようにする設計フレームワークであり,学術貢献のみならず,多種多様で安全な暗号アプリケーション創出の効果が期待できることから国際的に多大なインパクトを与えています.このように,同君は学術成果のみならず,実用面でも価値の高い研究成果を創出してきました.

 同君は,これまでの業績に対し,本会シニア会員の称号をはじめ,本会業績賞,市村学術賞功績賞,通信文化協会前島密賞,文部科学大臣賞科学技術賞など多数の学術賞を授与されております.また,国際暗号学会理事,CRYPTREC暗号技術検討会構成員,Asiacrypt運営員会日本代表委員,日本学術会議連携会員,を歴任し,日本の暗号理論研究をけん引し続けています.

 以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

区切


写真:大平孝

大 平   孝

推 薦 の 辞

 大平 孝君は,1983年に大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻博士後期課程を修了し,同年4月に日本電信電話公社(現NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.1999年から2007年の間,(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)にて,主幹研究員・研究室長・研究所長として研究に従事されました.2007年4月から豊橋技術科学大学教授に就任,2021年4月から豊橋技術科学大学名誉教授・未来ビークルシティリサーチセンター特任教授として現在に至っておられます.

 同君はNTTに入社以来,一貫してマイクロ波分野の研究開発に従事され,通信衛星さくら4号,きく6号,きく8号搭載GaAsMMICの開発及び実用化をはじめとして,数々の優れた成果を上げられ,先駆的な理論・方式の創出や普及に努めてこられました.ATRにおいては,エスパアンテナの発明などアナログ空間信号処理の理論構築と実践に注力されました.

 更に,豊橋技術科学大学に着任以来,無線電力伝送技術の基礎理論から実用化まで数多くの研究業績を達成されています.電気自動車への走行中給電実現の鍵となるワイヤレス区間を含む高周波電力伝送系に関する基礎理論である「一般化math理論」を創出,体系化しています.この理論構築により,従来困難とされていた電界結合ワイヤレス電力伝送システムの設計を可能とし,電気自動車への走行中給電を実現,かつバッテリーレス走行を世界で初めて成功させました.また同理論は計測機器メーカにてネットワークアナライザの組込みウェアとして製品化され,無線電力伝送技術の拡散と普及に貢献しています.

 同君はこれまでの業績に対して,本会フェローの称号をはじめ,本会エレクトロニクスソサイエティ賞,論文賞,文部科学大臣表彰など多数の学術賞を受賞されております.また,IEEE Life Fellow,URSI Fellowの称号も授与され,その活躍は世界的に認められております.

 加えて,本会において,2011年マイクロ波研究専門委員会委員長,2016年東海支部長をはじめとして,多数の委員会委員,会誌等での技術解説,高校生やジュニア会員向け記事を含む教育用コンテンツの創造など本会の活動に貢献されています.

 以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

区切


写真:菊間信良

菊 間 信 良

推 薦 の 辞

 菊間信良君は,1982年に名古屋工業大学工学部電子工学科を卒業,1987年3月に京都大学大学院工学研究科を修了し,同年京都大学工学部助手に任用されました.1988年4月に名古屋工業大学工学部助手,1992年10月に同助教授,2001年4月に同教授となられ,その後大学院重点化に伴い2003年4月に同大学院工学研究科教授に任命され,現在に至っておられます.

 同君はこの間,無線通信工学の研究を推進し,とりわけアレーアンテナを用いた適応指向性制御,空間多重化による高速通信技術の分野をけん引してこられ,以下に示すような多大な功績がありました.

 一つには,複数のアンテナで受信した信号に対して適応的に重み付けを行うことによりアレーアンテナの指向性を自在に制御できるアダプティブアレーの潜在能力にいち早く着目し,移動通信分野へ応用する多くのアルゴリズムを考案されました.ブラインド処理が可能な拘束付き電力最小化法や,最小二乗誤差法に基づく制御方法は,移動通信における基地局制御,端末制御技術の基盤となっております.

 次に,アレーアンテナを利用した電波到来方向推定技術,電波源位置推定技術にも取り組んでこられました.MUSIC法,ESPRIT法などの高分解能推定手法を更に発展,拡張して移動伝搬環境(多重波環境)に応用する技術は,移動通信における電波伝搬解析並びに各種レーダなどに応用されています.

 更に,送信と受信の双方にアレーアンテナを用いることにより空間的に通信を多重化するMIMO伝送技術が近年注目されていますが,その制御アルゴリズムの基本となるブロック対角化法を更に改良し,複数の端末局とMIMO通信を行うマルチユーザMIMOにおける効率的な伝送方法へと発展させました.

 同君は,本会においてアンテナ・伝播研究専門委員会委員/幹事/副委員長,和文論文誌B編集委員長,ComEX編集委員長,通信ソサイエティ会長/副会長,東海支部長,総務理事等の要職を歴任し,本会活動の発展に貢献されました.通信ソサイエティ副会長在任期間中には,研専運営会議議長として,研究会運営の大幅な改革を推進し,技術研究報告の完全電子化,研専活動の健全な財務基盤を支える参加費制の開始と年間登録制度の創設等を実現しました.これらの先駆的取組みは,通信ソサイエティだけでなく本会全体へと広がり,現在の本会研専活動の根幹に貢献する特筆すべき功績であります.また,2018年には通信ソサイエティにおける第三種研究会専門委員会である「革新的無線通信技術に関する横断型研究会(MIKA)」の発足に尽力され,更に,通信ソサイエティ会長在任期間中には,分野横断的議論を行う新たなフラッグシップ国際会議ICETCの立上げに参画し,これを成功に導き,本会活動の活性化,横断化,国際化に多大な貢献をされました.

 同君は,アダプティブアレー及び到来方向推定の基礎に関するワークショップ講師やテキスト出版を通じて,当該分野の若手研究者育成にも貢献してこられました.また,現在にも続く本会大会企画「論文の書き方講座」の立上げに尽力し,自らも講師を歴任し,多くの若手研究者の育成に貢献する多大な功績を上げられました.

 同君はこれらの業績により,本会フェローの称号をはじめ,本会論文賞・教育功労賞,電気通信普及財団賞などの多数の学術賞を授与されております.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における功績は誠に顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

区切


写真:小山二三夫

小山 二三夫

推 薦 の 辞

 小山二三夫君は,1980年東京工業大学工学部電子物理工学科を卒業,1985年同大学大学院理工学研究科博士課程を修了し,工学博士の学位を授与されています.同年東京工業大学精密工学研究所に助手として勤務され,1988年同大学助教授,2000年同大学教授,2016年同大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所初代所長,2018年同大学科学技術創成研究院長に就任され,同大学の研究力強化の重責を担われました.2023年からは,同大学名誉教授,科学技術創成研究院面発光レーザフォトニクス研究ユニット長,特任教授となって現在に至っております.

 同君は,現在データセンターネットワークや携帯端末の顔認証システム等で広く活用される面発光レーザの室温連続動作を世界に先駆けて実現し,その大きな発展の礎を築きました.また,面発光レーザと光機能デバイスを横方向に集積する構成法を提案し,波長可変面発光レーザ,超高速面発光レーザ,非機械式高解像ビームスキャナ,などの様々な新規光デバイスを実現し,光エレクトロニクスの進展に大きく貢献しました.同君の研究成果の一部は,共同研究企業により実用化が展開され,面発光レーザアレーを搭載した高精細カラープリンタの世界初の実用化に結実するなど,我が国での面発光レーザの産業応用にも貢献しました.これらの一連の業績は,次世代の超高速大容量光インタコネクト,情報通信分野へ面発光レーザの新たな可能性を切り開いたものです.

 また,人材育成の面でも35年間以上にわたり,博士課程40名以上を含む大学院学生100名以上を育成し,2007年からは文部科学省グローバルCOEプログラム「フォトニクス集積コア」の拠点リーダーを務め,高度な博士課程人材の育成にも貢献しました.更に産学10組織が参画する情報通信研究機構のBeyond 5G機能実現型プログラムのプロジェクトリーダーとして,世代エッジクラウドコンピューティング基盤の研究開発を先導してきました.

 これらの研究業績に対して,本会からは1990年篠原記念学術奨励賞,1990年・1994年・2002年・2007年論文賞,2006年エレクトロニクスソサイエティ賞,2009年フェロー,2019年業績賞を授与されたのをはじめとして,1998年丸文学術賞,応用物理学会会誌賞,2004年市村学術賞功績賞,2007年文部科学大臣表彰科学技術賞,2008年IEEE/LEOS William Streifer Scientific Achievement Award,IEEEフェロー,応用物理学会フェロー,2011年Microoptics Award,2012年応用物理学会光・電子集積技術業績賞,2015年東京都功労者技術振興功労表彰,2016年市村産業功績賞,2017年光産業技術振興協会櫻井健二郎氏記念賞,2018年大川賞,2019年Optica Nick Holonyak, Jr., Award,2020年Opticaフェロー,2024年ヒロセ賞,IEEE Nick Holonyak, Jr. Medalなどの数々の賞を受賞されています.

 学会活動においては,本会のエレクトロニクスソサイエティ会長,編集特別幹事,光エレクトロニクス研究専門委員会委員長,IEEE東京支部理事,IEEE Photonics Society理事などの要職を歴任されています.

 以上のように,同君の本会並びに国内外の関連学会における活動,及び電子情報通信技術の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

区切


写真:佐藤亨

佐 藤   亨

推 薦 の 辞

 佐藤 亨君は,1976年に京都大学工学部電気工学第二学科を卒業,1978年に同大学院工学研究科博士課程を研究指導認定退学され,1981年に京都大学工学博士の学位を授与されました.1983年から京都大学超高層電波研究センター助手等を経て1998年に同大学院情報学研究科通信情報システム専攻教授に着任し,2019年に定年退職,名誉教授の称号を授与されました.引き続き2023年まで同国際高等教育院特定教授,副教育院長を務められました.

 この間,京都大学においては,工学部電気電子工学科長,情報学研究科長などを歴任し,大学運営に貢献されました.国外では,International Workshop on Technical and Scientific Aspects of MST RadarのGeneral Organizerほか多数の国際会議委員を歴任し,レーダ技術の進展に貢献されました.国内では,本会エレクトロニクスソサイエティ大会委員長,電気学会電磁界理論技術委員会委員長,日本学術会議連携会員などを務められました.また,2011年から2018年まで公益財団法人 輻射科学研究会代表理事を務められました.

 同君は,地球中層・超高層大気,スペースデブリ,室内環境,人体など,多様な目標をレーダにより測定するための観測技術並びに信号処理技術の開発に従事し,レーダ技術の高精度・高分解能化と,応用分野の拡大に多大の寄与をなされました.特に大気乱流の高分解能観測の成果は世界に先駆けるものであり,京都大学MUレーダーや赤道大気レーダ等,世界の大気レーダシステムの設計に大きな影響を与えました.更に南極地域最初で唯一の大形大気レーダであるPANSYレーダーの技術開発と設計・建設に尽力されました.

 近年は,超広帯域(UWB)レーダを用いた室内環境計測等の分野において,通常の開口合成技術の限界を超える超高分解能と高速処理を両立させる物体像再構成技術並びに人体の精密計測技術を開発してこられました.特にバイタル情報の遠隔計測技術に関し,ミリ波レーダを用いて,近接した複数人の心拍同時計測を世界に先駆けて実現し,また発表当時世界最高の精度で心拍を計測することに成功されました.この技術は京都大学COIの参画企業によって製品化されています.

 これらの業績に対して2007年度本会通信ソサイエティ優秀論文賞,2014年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門),2015年には第8回海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞)を受賞され,2006年に本会フェローの称号を受けておられます.

 以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

区切


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