知識の森 誘電体基板集積導波路

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Vol.107 No.7 (2024/7) 目次へ

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知識の森

マイクロ波研究専門委員会

誘電体基板集積導波路

岸原充佳(岡山県立大学)

本会ハンドブック「知識の森」

https://www.ieice-hbkb.org/portal/doc_index.html

1.誘電体基板集積導波路とは

 誘電体基板集積導波路(SIW : Substrate Integrated Waveguide)(1)は,ポスト壁導波路(Post-Wall Waveguide)(2)や積層導波路(Laminated Waveguide)(3)としても知られ,図1に示されるような,上下に導体面を持つ誘電体基板に適度な間隔で金属柱列(ビアホール)を配置して擬似的な導波管構造を形成したものである.この金属柱列は上下導体面と接続されている.SIWは誘電体基板集積導波路の名称が定着しているが,誘電体基板に一体化した導波管が本来の意味となろう.SIWはプリント基板のスルーホール形成技術を用いて低コストで生産できることや,マイクロストリップなどと比べると低損失であること,導波管構造が有する高周波(ミリ波帯)での信頼性などがメリットと言える.

図1 誘電体基板集積導波路(SIW)の構造  上下に導体面を持つ誘電体基板に金属柱列(ビアホール)が配置された構成で,擬似的な導波管構造を形成している.

 一般に,図1の導波路構造を代表してSIWと呼称しているが,SIWはKe Wuら(カナダ)によって提案されている.マイクロストリップと方形導波管の平面変換部において,平面基板に導波管を形成する方法として用いられている.一方,ポスト壁導波路は,平行平板スロットアレーアンテナへの給電線路として広川ら(東工大)によって提案されている.同時に,多層基板への導波管形成を行った積層導波路が内村ら(京セラ)によって提案されている.積層導波路は,図1のSIWやポスト壁導波路をミルフィーユのように層状に重ねたものを想像してもらえればよい.いずれも高性能なミリ波システムの必要性が高まりつつあった2000年頃に登場している.

2.導波路の特性

 SIWは,方形導波管の短辺側の側壁を金属柱に置き換えて,TEモードが放射することなく伝搬できるように構成された導波路である.したがって,マイクロストリップなどのTEM線路とは違って遮断周波数が存在する.導波管TEモードの壁面電流は側壁で上下方向に流れるが,ちょうど金属柱の方向と一致するため,SIW構造でもTEモードが伝搬できる.通常,基板厚はmathより十分薄いため,伝搬モードはTE10モードである.対してTMモードは壁面電流が側壁で伝搬軸方向を向いており,飛び飛びに配置される金属柱間を流れることができない.したがって,SIWでTMモードは伝搬できない.(積層導波路は層状の導体面を有するため異なる.)

 SIWの金属柱間に隙間があることから,電磁波が導波路外へ漏れる印象を受けるが,金属柱の配置間隔mathが波長と比べて十分狭ければ(math程度),放射は抑制できる.図2は,波長当り6本程度の金属柱を配置したSIWの電界分布である.やや間隔mathが広いため金属柱外にも電界が広がっているが,金属柱間をTE10モード状の波が伝搬していく様子が見える.用途に応じて減衰定数や遮断周波数から決める必要がある.SIWの導波路特性は,方形導波管と類似した特性を示す.幅mathで金属柱が配置されたSIWの等価的な側壁は,実効幅mathの場所に現れる.したがって,幅mathの方形導波管と等価な伝搬特性を持つ.金属柱を密に配置して放射の抑制された状態では,通常,mathとなって金属柱中心から内側に側壁が存在するように振る舞うが,金属柱の径mathや配置間隔mathによっては,mathの状態も出てくることになる.

図2 SIW(a)と等価導波管(b)の電界分布  幅afで金属柱が配置されたSIWの等価的な側壁は,実効幅aeの場所に現れる.したがって,幅aeの方形導波管と等価な伝搬特性を持つ.

 例えば,図3は24GHz帯での使用を想定して設計されたSIWの位相定数(rad/cm)及び減衰定数(dB/cm)の周波数変化を示している.位相定数に導波路の長さを掛ければ,伝搬している電磁波の位相変化量になる.これが図3では16.1GHzで0になっていることが分かる.この周波数を遮断周波数といい,この周波数より高い周波数でなければ電磁波は伝搬できない.方形導波管のTE10モードの遮断周波数に相当している.減衰定数は単位長さ当りの電磁波の減衰量を表すが,図3ではデシベル換算を行って示している.遮断周波数を境にして,それより低い周波数では減衰定数が急激に大きくなっている.逆に遮断周波数を超える周波数になると小さな値になっていることが分かる.これは,遮断周波数未満では電磁波が伝搬できずに急速に減衰してしまうが,遮断周波数以上では小さな減衰はあるものの,電磁波が伝搬するという導波特性を意味している.

図3 SIWの位相定数及び減衰定数の周波数変化  遮断周波数16.1GHzより高い周波数で電磁波の伝搬が生じる.それ未満では大きな減衰となり,電磁波はSIW内を伝搬しない.

 図3の特性には,導体損や誘電体損などといった材料由来の損失は含まれていないため,伝搬領域での減衰の要因は,SIWの構造によって生じる外部への放射によるものである.図3は配置間隔math=1.8mm,金属柱径math=0.73mm,つまり側壁に約1mmの隙間があるSIWだが,24GHzでおおよそ0.002dB/cm程度の放射損にとどまることが読み取れる.間隔隔math=0.73mm,つまり側壁に約1mmの隙間があるSIWだがをより短く密に配置すれば,放射による減衰量はもっと減らすこともできる.なお,図3のSIWは,幅math=6.4mmの方形導波管と同等の遮断周波数,位相定数の周波数変化を持つ.

3.導波路の設計と利用

 SIWの設計では,動作帯域や用途に応じて遮断周波数や減衰定数を決めていくことになる.設計では前述の3パラメータ(mathmathmath)を調整すればよいが,同じ幅mathと間隔mathであっても,ビア径mathが変われば減衰定位数に違いが現れる(4).実効幅mathも影響を受けるため,遮断周波数も移動する.電磁界シミュレータ等で数値解析を行えば,基板等の個別条件を考慮して寸法決定できる.簡易的な設計でよい場合は,文献(4)などの実験式が利用できる.

math

なお,mathmathの場合は精度が良いとある.

 また,SIWを利用するためには,電磁波を反射しないように導波路内に入力して,図2のようなTE10伝搬モードが立たなければならない.誘電体基板では伝送路としてマイクロストリップ線路が広く用いられているが,図4のようにテーパを介してマイクロストリップとSIWを相互に接続すれば,良好な変換器となってマイクロストリップからSIW,SIWからマイクロストリップへと電磁波を低反射で伝搬させることができる(1).冒頭で述べたKe Wuらの「マイクロストリップと方形導波管の平面変換部において,平面基板に導波管を形成する方法」が正にこの構造で,導波管をSIWという仕組みで実現したものである.SIWへ信号を入力する他の方法としては,一般的な同軸導波管変換器のように,SIWの導体面から垂直に同軸線路の先端を挿入する方法も可能である.これは,比較的厚みのある基板や導波路構造の場合に有効である.

図4 マイクロストリップ―SIWトランジション  マイクロストリップからSIWへの信号変換が行える.

 SIWは疑似導波管と言える導波路構造であるため,従来から知られているような導波管形の回路(フィルタや電力分配器,結合器など)の形状を等価なSIWに置換すれば容易にSIW回路素子を開発することが可能である.

文     献

(1) D. Deslandes and K. Wu, “Integrated microstrip and rectangular waveguide in planar form,” IEEE Microw. Wireless Compon. Lett., vol.11, pp.68-70, Feb. 2001.

(2) J. Hirokawa and M. Ando, “Single-layer feed waveguide consisting of posts for plane TEM wave excitation in parallel plates,” IEEE Trans. Antennas Propag., no.5, pp.625-630, May 1998.

(3) H. Uchimura, T. Takenoshita, and M. Fujii, “Development of a “laminated waveguide”,” IEEE Trans. Microw. Theory Tech., vol.46, no.12, pp.2438-2443, Dec. 1998.

(4) F. Xu and K. Wu, “Guided-wave and leakage characteristics of substrate integrated waveguide,” IEEE Trans. Microw. Theory Tech., vol.53, no.1, pp.66-73, Jan. 2005.

(2024年1月16日受付) 


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