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21世紀に入ってワイヤレス電力伝送の理論構築が大きく進捗しており,その基本を若手エンジニアに解説する記事も出版されている(1)~(3).にもかかわらずワイヤレスは難しいという声を聞く.電力伝送に用いられるコイルやコンデンサは素子単体としての振舞いは何とか理解できるが,これら素子を複数組み合わせた結合系になると途端に敷居が高くなる.
これはそもそも電圧や電流が直接目に見えない物理量ゆえに先入的苦手観があるからではないだろうか.そこで本稿では電気の用語を全く使わず視覚的に捉えやすいメカの世界でワイヤレス理論を探訪する.親しみやすいポンチ絵モデルを示し,高校生が理解できる簡単な線形代数演算で伝達システムの結合ファクタや最大動力効率の公式を導き出す.
ワイヤレス電力伝送の動作理論を電気知識を使わずに何とか説明したい.その願いをかなえるモデルを図1に示す.お母さんが自身の健康増進と子供たちの遊具駆動を兼ねてぺダルをこぐ.ぺダルは回転式送風機に直結しており,そこから空気を媒体として受風機にエネルギーが伝わる.受風機はギアを介して遊具のカルーセルを回転させる.カルーセルは内部にエネルギー源を持たず,受風した動力だけで回転する.お母さんのぺダルを動力源,送風機から受風機に至る部分を伝達系,子供たちが乗るカルーセルを負荷,そしてこのシステム全体をワイヤレス風力伝送と呼ぶこととしよう.
動力源のペダルトルクを,それにより送風機が回転する角速度をとする.同様に負荷であるカルーセルのギアトルクを,受風機の角速度をとする.ここでは簡単のため
①角速度が時間的に一定
②トルクが角速度に比例
と考える(注1).この前提によってシステム性能の定式化に線形代数が使えることになる.これがこのモデルの重要ポイントである.
線形システムにおいては重ね合わせの理が成り立つ.まず受風機側を回転しないように固定した状態での送風機側のトルクと角速度の比例定数をと書く.つまりである.その状態で受風機の固定を外すと,受風機が回転する角速度に比例した分だけ送風機側の必要トルクが軽くなる.(お母さんが楽になる.)その比例定数をと書くと
(1)
である.比例定数は送受が密結合のとき大きい値となり,送受間隔が離れると小さな値となる.これが送風トルクに関する重ね合わせの理である.
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