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アート作品を創造するという人間活動は太古の昔から続いてきている.どの時代もアーティストは,最新の科学技術を反映した「道具」を用いて,想像力(イマジネーション)に富んだアート作品を創造してきた.道具が新しくなれば,アーティストの技能が磨かれ,作品の出来も良くなっていく.Wikipediaの「Art」でも,「アートとは,創造的で想像力が豊かな作品を生み出す幅広い人間活動である」と定義している(1).「アート」という解釈が,時代とともに少しずつ変化していることはよく知られているが,科学技術が進展すると道具が進化し,新しいアートが生まれ,結果としてアートの定義が変わっていく.このように,アーティストと科学技術との間には切っても切れない関係がある.例えば,光の絵師と言われた伊藤若冲の作品を最新の科学技術で分析してみると,並外れた知覚能力を持っていたことや故にその作品ができていたことが分かるという(2).この事実を鑑賞者が知れば知るほど若冲の虜になっていく.アーティストという創作者と鑑賞する人との間で,アート作品やその歴史の解釈について造形の深さや美的な展示または表現方法を批評または議論することはアートの楽しみ方として極めて重要である(1)が,最新の「科学技術で」分析することは,この楽しみ方を更に増すことになる.
一方,最新の「科学技術が」新しいアート作品を創作するという楽しみ方もある.最近になって,プロジェクションマッピング,ロボット,生成AIなどの最先端の「科学技術が」用いられたアート作品が増えている.一人のアーティストが創造する作品というよりは,インターネットを含めて集団で創造するアート作品が多く,鑑賞者も1作品をじっくり見るというよりは,あるストーリーに基づく作品を自らインタラクティブに体験できる点に特徴がある.その作品には,複数のアーティストの想像力や発想力が盛り込まれ,変化に富んだストーリー性と予期せぬ様々な出会いに遭遇できるわくわく感がある.WikipediaにもArt以外に「The Arts」のサイトがある(3).The artsは,文化や歴史を超えて,人々が技術,創造性,想像力をもって行う集団活動とも言える.絵画,建築,彫刻,文学,音楽,舞台芸術,映画館(cinema)の七つに分類され,映画(film)は「第8のアート」,コミックは「第9のアート」と呼ばれている(3).プロジェクションマッピングやロボット,生成AIなどは第10以降のアートとして分類されるのはもはや時間の問題である.第10以降のこれからのアートとそれまでのアートとの一番の違いは,鑑賞者が1作品をじっくり見るというよりは,自らインタラクティブに様々な作品を体験できる点にある.
そこで,今回の特別小特集には,想像力をかき立てるという視点で,「科学技術で分析するアート」と「科学技術がアート作品を創る」の2種類のアート作品の楽しみ方を紹介する.まず,「科学技術で」過去の優れたアーティスト作品を最新の科学技術で謎解きをする例を示す.次に,プロジェクションマッピングやロボット,生成AIなどの最先端の「科学技術が」用いられたアート作品を紹介する.その中には,道具の性能が上がり「役に立つアート」までも制作できることを示す.
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