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分子ロボティクス技術の進展特集
2.
移動計算主体群の分散計算理論
――分散システムとしての分子ロボット――
Distributed Computing Theory for Mobile Computing Entities: Molecular Robots as Distributed Systems
分散システムとは,計算主体群が協調して創出する,一つの計算システムである.分散計算理論は主に計算機ネットワークのための基礎理論を担ってきたが,近年はモバイルロボット群,化学反応系,生物の群行動へと対象を広げている.分子ロボットにも様々な観点から分散システムの構造を発見できる.本稿では,分子ロボットを情報システムとして議論する際に有用と考えられる,移動計算主体群の分散計算理論を紹介する.
キーワード:分散システム,自己組織化,合意形成,移動計算主体群
分子ロボティクスと情報学の関連は,核酸やたんぱく質で形成された回路部品からプロセッサをいかに構成するかという計算機の内部構造にとどまらず,センシングによる通信,アクチュエーションによる移動,それらを統合して分子ロボットという情報システムを実現する方法や効率性,限界など多岐にわたる.本稿では情報学基礎理論の一分野である分散計算理論でのトピックを紹介し,分子ロボットを情報システムと考えた場合の議論の方法を提供することを試みる.
分散計算理論は主に計算機ネットワークにおける課題解決を担ってきた分野である.計算機の集合とそれらを接続する通信リンクから構成されるシステムを分散システムと呼ぶ.システム全体の状況を知らず,局所的,並列的,非同期的に計算や通信を行う計算機群をいかに協調させるか,その原理を解明することが分散計算理論の主題である.計算機の集まりが協調するという分散システムの構造は汎用性が高く,分散計算理論はインターネット,クラウドコンピューティング,ブロックチェーン,連合学習といった大規模情報システムを支える基盤技術であるとともに,化学反応,生物群の振舞い,人間社会の意思決定といった多種多様な「計算の集まり」を理解,制御するための理論としても注目を集めている.
分子ロボットにも様々な観点から分散システムの構造を発見できる.例えば,人工的に設計した核酸やたんぱく質の集まりから構成されるANDゲートシステム,核酸やたんぱく質で形成された回路部品の集まりから構成される順序回路システム,分子ロボットの集まりで構成される薬物送達システムなどが考えられる.本稿では,分子ロボットを分散システムとして議論する場合に有用と考えられる,移動する計算主体群の分散計算理論,特に,分子ロボットに関連する計算モデルや結果を紹介する.
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