特集 4. 細胞型分子ロボットの現状と展望

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分子ロボティクス技術の進展特集

特集

     4.

細胞型分子ロボットの現状と展望

Progress and Outlook of Cell-sized Molecular Robots

佐藤佑介

区切り

佐藤佑介 九州工業大学大学院情報工学研究院

Yusuke SATO, Nonmember (Department of Intelligent and Control Systems, Kyushu Institute of Technology, Iizuka-shi, 820-8502 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.11 pp.1053-1060 2025年11月

©2025 電子情報通信学会

abstract

 細胞型分子ロボットは,脂質二分子膜小胞(GUV: Giant Unilamellar Vesicle)をきょう体とした人工分子システムのことを表す.GUVにDNAナノ構造や分子反応ネットワークを組み込み,物質輸送や信号応答,形態変化など多様な機能を実現することができる.これらの機能をシステムとして動作するようGUVに統合することで,細胞型分子ロボットは構築される.本稿では,細胞型分子ロボットに実装可能な代表的な機能要素について紹介し,更に,機能要素の統合を実現した例を解説する.これら現状の到達点を外観しつつ,今後の課題と展望について議論する.

キーワード:細胞型分子ロボット,DNAナノテクノロジー,GUV,分子回路

1.細胞型分子ロボットとは

 細胞型分子ロボットとは,直径数十µmの単層脂質二分子膜小胞(GUV: Giant Unilamellar Vesicle)(注1)をきょう体に据えた人工分子システムのことを表す.GUVの表面や内部にDNAナノ構造体・分子反応ネットワークなどを組み込み,所望の機能を実現することが目指されている.天然の細胞は数十億年の進化が磨き上げた高度な分子システムだが,その機能の全容は複雑でいまだブラックボックスも多い.そのため,細胞そのものの再構成を意図した合成生物学とは異なり,細胞を参考にしつつも,細胞とは異なる原理で様々な機能を実現することが意図されている.異なる原理による実現の要素技術として期待されているのが,DNAナノテクノロジーである.本特集の第3章や第8章で解説されているように,配列設計したDNAを材料に様々なナノ構造や分子回路を構築することができる.将来的には別の技術が主流となる可能性も考えられるが,現時点では,その設計の容易さと実現できる機能の幅広さから,DNAナノテクを中心とした研究が多く行われている.

 ナノスケールでも様々な機能要素やロボットのような機能を示す分子構造を構築できる中で,細胞サイズの分子ロボットの実現を目指す利点は何だろうか.ナノスケールの単一分子型ロボット(1)では,複数の機能を実装することは技術的にもサイズ的にも難しい.また,ミリスケールまで巨大化すると(2),設計した分子が示す反応や現象だけで全てを制御することが難しくなってくる.この観点で,細胞サイズ分子ロボットは「大き過ぎず小さ過ぎない」メゾスケールに位置し,設計した機能性分子や反応モジュールをレゴブロックのように組み替えながら様々な機能実装を検討・実現するちょうどよいスケールであろう.

 細胞型分子ロボットのきょう体となるGUVは,外界と隔絶された独立反応空間を提供すると同時に,脂質二分子膜を介した物質や情報のやり取りのための機能性分子を表面に配置することができる.そして,GUVの内部にはDNA分子回路やDNAと酵素から成る反応ネットワークなどを封入できる.更に,脂質二分子膜の柔軟性を生かし,GUVに様々な形態変化を引き起こすことも可能である.したがって,これらを機能要素とした分子のシステムを単一のGUVをきょう体として実現することが可能である.本稿では,まず分子ロボットの構築に有効なGUV調製方法を紹介し,続けてGUV表面の機能化とGUV内部への分子反応ネットワークの実装,GUVの形態変化について紹介する.そして,これらの機能要素の幾つかを統合した分子システムとしての実装を概観する.最後に,エネルギー供給や電気的制御といった課題や展望を整理しつつ,今後の応用展開を議論する.


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