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分子ロボティクス技術の進展特集
5.
DNA凝集体の物理と分子コンピューティング
Physics of DNA Condensates and Molecular Computing
本稿では,DNAナノ構造の相分離現象と分子コンピューティング技術を融合させ,自律的かつ動的な細胞サイズの分子ロボットの構築を目指す研究を紹介する.DNAは情報分子としての性質と構造体形成能を併せ持ち,環境応答や情報処理といった多様な機能が実現可能である.分岐型DNAナノ構造によって形成されるDNA液滴は,塩基配列設計により融合や分裂などの非平衡ダイナミクスを制御できる.特に,DNAリンカー配列を設計・制御することで,その自由エネルギーを利用した論理演算やmiRNA濃度比較器などの実装が可能であり,生体診断への応用が期待される.
キーワード:分子コンピュータ,DNA液滴,DNAナノテクノロジー,相分離液滴
生命システムの基本要素である細胞は,正に自然の分子ロボットである.例えば,免疫細胞であるマクロファージは,細菌,ウイルス感染細胞,腫瘍細胞を感知し,非平衡分子反応ネットワークと細胞内のソフトマターの流体運動や変形を利用して,それらの異物を貪食することができる(1).細胞はマイクロメートルサイズの分子集合体であり,そのダイナミクスは非平衡化学反応と生物学的ソフトマターの物理現象によって維持されていると言える.このような高度な動的挙動の実現には,一般にソフトで変形可能であり,非平衡化学反応系を内包する反応場が必要である.更に,そのソフトな反応場へのエネルギー・物質・情報の出入りが持続していることが必須である.このような観点から,これまでに,生体分子であるDNA,RNA,たんぱく質,脂質などのバイオソフトマターを用いて,細胞のような動的挙動に着想を得た分子ロボット(2),(3)や非平衡な人工細胞モデル(4)~(6)に関する多くの研究が報告されてきた.
自律的で動的な分子ロボットや人工細胞の仕組みを実現するには,情報分子でコード化された分子プログラムと非平衡化学反応ネットワークが,何らかのボディにカプセル化されていることが本質である.カプセル化する技術としては,現在,(ⅰ)脂質二重層小胞(リポソーム)や油中水滴を用いた「膜あり」分子集合体,(ⅱ)ハイドロゲル,コアセルベート(associativeな液―液相分離(LLPS: Liquid-Liquid Phase Separation)液滴),水性二相分離液滴(segregativeなLLPS液滴)などを用いた「膜なし」分子集合体などが知られている.「膜あり」分子集合体は,細胞のように分子サイズや分子の電荷に基づいた選択的な分子透過性を持つ膜で覆われているため,カプセル的に封入することで分子を保持しやすい.その反面,基質となる分子の流入出が阻害されるため,流入出を実現することが難しく,膜たんぱく質などによる分子の輸送技術が必要となる.「膜なし」分子集合体の場合は,分子透過性が高く,分子の流入出が容易であるため,非平衡開放系を実現しやすい.一方で,分子を保持する能力が高くないので,特異的な相互作用などで保持するなどの工夫が必要となる.
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