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分子ロボティクス技術の進展特集
6.
多細胞型分子ロボットの機能化研究
Functionalization Research of Multicellular Molecular Robots
多細胞型分子ロボットの研究は,生命史の重要な進化的転換である単細胞から多細胞への移行を参考に,分子ロボットにおける新機能を創出する分野である.本稿では,分子レベルから多細胞様システムを構築するボトムアップアプローチを概観した.階層的組織化,非平衡状態維持,情報処理能力の三つの設計原理に基づき,脂質膜システム,液―液相分離,外場制御の構築手法を詳述した.情報伝達,動的応答,協調機能を持つ実例を紹介し,医療・環境・産業分野での応用可能性を示した.安定性と制御性の課題があるものの,生命の本質理解と革新的応用が期待される重要な研究領域である.
キーワード:多細胞型分子ロボット,人工多細胞体,自己組織化,DNAナノテクノロジー,人工細胞
多細胞生物の出現は生命史における最も重要な進化的転換の一つである.単細胞から多細胞への移行により,複雑な形態形成,機能分化,協調的行動が可能となり,現在の生物圏の基盤が築かれた.近年,この多細胞性の本質的メカニズムを理解し,人工的に再現し,更に生物には実行困難な望みの機能の実現を目指す「人工多細胞体」の研究が急速に発展している.と言っても本稿では,現存する生物の細胞を遺伝子から改変し,多細胞化して生体組織や臓器,個体発生のメカニズムなどを知り利活用する研究(オルガノイドやアセンブロイドと呼ばれる)は取り扱わない.ここでは分子レベルから多細胞体を構築する,スクラッチビルドやボトムアップと呼ばれるアプローチに焦点を当てる.このアプローチが実現するのは,生物学的制約に縛られずに,物理化学的な設計原理に基づいた新規機能を有する「多細胞型分子ロボット」の創出である.単細胞よりも高次の機能,知的情報処理の創発等が期待されている(1),(2).
多細胞型分子ロボットをボトムアップアプローチにより構築するということは,分子を選んで区画(コンパートメント)を調製し,更に組織化することで多細胞化し,動作させるシステム全体を設計することに当たる.このアプローチには分子の選択や設計に,生物学的な制約がない.研究者は,区画化,反応・拡散,コミュニケーション等の,多細胞生物の特徴を抽象化し,マイクロサイズの区画や,より高次の組織体で生じる反応を構築するために,多様な物理化学的手法を選択することができる.設計の自由度の高さがボトムアップアプローチの特徴であるが,良い設計とは,マルチスケールでの動作において,組合せの柔軟性とモジュラー性を提供可能にするものである.その実例を以下に見ていこう.
本稿では,図1に示すような,複数の区画化された分子システムが更に高次の組織体となり,統合的に動作する高次の分子システムを,人工多細胞体・多細胞型分子ロボットと呼ぶ.この呼称は研究者間で統一されているわけではない.このような人工多細胞体研究の応用可能性は多岐にわたる.医療分野では,個別化薬物送達システムや疾患モデル構築への応用が期待される.バイオテクノロジー分野では,高効率バイオリアクタや環境浄化システムの開発が可能となる.更に,生命起源研究のモデルシステムとしても重要な役割を果たすことは間違いない.

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