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1.サイバーフィジカルシステムの要素技術と産業応用(日本機械学会連携企画)
小特集 1-1
各産業がCPSを通じてつながるSociety 5.0社会
Society 5.0 Linking Each Industry through CPS
Society 5.0は,第5期科学技術基本計画において,「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」として,初めて提唱され,第6期科学技術・イノベーション基本計画(1)では,「持続可能性と強靭性を備え,国民の安全と安心を確保するとともに,一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と,より具体的に,目指すべきSociety 5.0の未来社会像を示している.
Society 5.0の基盤技術として,サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムであるサイバーフィジカルシステム(CPS: Cyber-Physical System)が取り上げられている.CPSは,IoT技術,AI技術,ロボット技術等の各要素技術をつなげていくプラットホームとしての基盤技術であり,昨今のAI技術の発展とともに,その重要性が増している(図1).
フィジカル空間のデータを取得する技術としてIoT技術が挙げられる.IoT技術により,あらゆるフィジカル空間のデータを集めることでビッグデータとなり,そのデータの意味理解技術としてAI技術が活用される.その意味理解された解釈に基づき,ロボット技術によってフィジカル空間への干渉を行うことでフィジカル空間へのサービスを実現する.このように,それぞれの技術が連携して活用するための仕組みとしてCPSが位置付けられている.
CPSを構築すべき必要性の大きな理由の一つはAI技術活用における学習効率の向上である.まず,AIの認識精度を上げるためには,大量なデータが必要とされる.すなわち,IoT技術によって,理想的には,環境のあらゆるデータを集めることが求められる.それは,サイバー空間内に,フィジカル空間と同じ環境が表現できることと同義であり,構築されるサイバー空間の精度がデータ量と高い相関関係にあると言える.
フィジカル空間と同じ空間をサイバー上に表現できることで,シミュレーション技術の活用が可能となる.例えば,ロボット技術を介して,多様な対象物に対して物理的操作をする場合,AI活用における学習データを集めるために,多種多様な対象物に対して,膨大な回数の実機ロボットによる実験が必要とされる.事実,Googleでは,物体操作の学習データのために,膨大な数の実機ロボットを使って収集していた.しかし現在では,サイバー空間上に構築する環境のモデルの精度が高ければ,サイバー空間内の物理シミュレータにより,実際にフィジカル空間で学習を行うデータを構築でき,サイバー空間のみでも学習を行うことができる.すなわち,フィジカル空間での少ない実機による学習データであっても,サイバー空間での学習データを加えることで,十分な学習データとして活用することが可能となっている.例えば,工場等の現場データが取得できるIoT環境を構築できたとしても,一般的には定常運転の学習データが,ほぼ多くを占めるものである.本来,トラブル時の非定常の状況こそ,現場作業者のスキルが必要であり,AIの活用の重要性もその状況下で発揮される.しかし,実際の工場がトラブルを起こした際の非定常状況の学習データは少ない,すなわち学習データが不十分であれば,AIによる効果は期待できなくなる.その上でも,サイバー空間の工場モデルが正確に構築できていれば,サイバー空間においてトラブルを起こした状況のシミュレーションを行うことで,非定常のデータを作り出すことが可能であり,AI技術活用にとって,多様な学習データを増やすことができる.この点もサイバー空間を構築するべき理由となる.
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