小特集 1-4 農業分野におけるサイバーフィジカルシステム(Cyber-Physical System)の活用

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1.サイバーフィジカルシステムの要素技術と産業応用(日本機械学会連携企画)

小特集 1-4

農業分野におけるサイバーフィジカルシステム(Cyber-Physical System)の活用

Application of Cyber-Physical Systems in Agriculture

中川潤一

中川潤一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

Junichi NAKAGAWA, Nonmember (National Agriculture and Food Research Organization, Tokyo, 105-0003 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.2 pp.123-125 2025年2月

©2025 電子情報通信学会

1.は じ め に

 農業・食品産業を取り巻く環境は大きく変化している.農業従事者の減少,自然災害の頻発,地球温暖化の進行などは,日本の農業物生産に大きな影響を及ぼしており,それらへの対応が急務である.このような課題に対して,飛躍的に発展したAI(Artificial Intelligence),ICT(Information and Communication Technology),ロボティクス技術を駆使して,フィジカル空間とサイバー空間を融合させたサイバーフィジカルシステム(CPS: Cyber-Physical System)をフル活用した革新的な農業・食品産業技術の研究開発が開始されている(1)

 ここでは,農業・食品産業分野におけるCPSの活用例として,データ駆動形の土壌メンテナンスシステムと,イチゴのジャストインタイム(JIT: Just In Time)生産システムについて紹介する.

2.農業分野におけるCPSの活用

 図1に,農業分野において目指すCPSを示す.圃場(用語)や栽培施設などのフィジカル空間において,土壌状態や気象,農作物の生育状態などをセンシングし,サイバー空間において収集したビッグデータをAIで処理することで,高度で複雑な環境に対応した行動計画を作成する.それをフィジカル空間にてロボティクス技術を適用したスマート農機やドローン,環境制御機器による自動農作業,環境制御を実行する.このようなCPSをフル活用した,収量最大化,農作物の高品質化,作業の効率化,気候変動対策などの新たな価値を創造し実現する次世代の農業の形が始まっている.

図1 農業分野におけるCPS

3.データ駆動形土壌メンテナンスシステム

 日本の農業現場では農業従事者が急減しており,圃場の管理不足による収量不安定化が課題となっている.また,過剰な化学肥料や農薬の使用による環境汚染も大きな問題となっている.このような状況下で,食料の安定供給,生産性向上などを実現し,更に,環境保全を両立させるには,土壌を適切に管理することが重要である.そのため,圃場ごとに土壌の状態を精緻にセンシングし,その結果に基づき精密に土壌を管理・維持する技術が求められている(2)

 図2に,開発を進めているデータ駆動形の土壌メンテナンスシステムの全体像を示す.農作業と同時に土壌の物理性,化学性,生物性などを自動でセンシングし,AIによるビッグデータ解析・処方箋・行動計画の提示,スマート農機による精密圃場管理作業から構成されるデータ駆動形の土壌メンテナンスシステムである.CPSを活用することで,露地栽培のような複雑な環境条件下においてもロボティクス技術による精密作業の実現が可能となる.図2中には,作物の生育に大きな影響を及ぼす土壌の物理性に着目し,先行的に開発した砕土率(用語)センサを示す.スマート農機に装着した高精細カメラで取得した土壌表面の画像データから作物の発芽・生育に影響する砕土率を誤差14%以下で推定可能である.

図2 データ駆動形の土壌メンテナンスシステム

 今後,更に土壌の物理性,化学性のセンシング技術の開発を進め,データ駆動形の土壌メンテナンスシステムの構築を進めていく予定である.


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