小特集 2-3 ディジタルツインで加速するスマートシティの社会実装

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2. サイバーとフィジカルが融合した都市の未来(日本機械学会連携企画)

小特集 2-3

ディジタルツインで加速するスマートシティの社会実装

Digital Twins Accelerating Smart City Implementation

永野善之

永野善之 日本電気株式会社スマートシティ事業部門

Yoshiyuki NAGANO, Nonmember (Smart City Business Development Division, NEC Corporation, Tokyo, 108-8001 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.2 pp.138-140 2025年2月

©2025 電子情報通信学会

1.スマートシティの変遷

 ICTなどの新技術や各種データを活用し,生活の質の向上や地域課題の解決,また新たな価値の創出を図るスマートシティの取組みが,近年国内外の様々な地域で実践に移されている.「スマートシティ」という言葉は2000年代頃から欧米を中心に使われ出した.初期のスマートシティはスマートメータによるエネルギー効率の向上やスマートパーキングシステムによる交通渋滞の緩和など,特定の分野での「センシング型スマートシティ」のサービスが主であった.これに対して2016年頃から,領域や地域を越えてデータを連携・活用し,様々な課題解決を目指す「データ駆動形スマートシティ」の取組みが世界的に行われるようになってきた.

 例えばヨーロッパを代表するスマートシティの一つであるリスボンでは,市内各所に設置されたセンサやカメラで得られた200種類以上のデータをAIやIoT技術を活用して収集.これを分析することで,交通渋滞対策やインシデント対応,都市計画など,様々な領域の課題解決と効率的な都市運営につなげている.我が国でもスマートシティを『情報社会にAIやIoTが加わったより生活しやすい社会と定義する「Society 5.0」の先行的な実現の姿』として位置付け,2017年以降多くのデータ駆動形スマートシティの取組みが推進されてきた.関連府省が連携して進めるスマートシティ関連事業や「スーパーシティ構想」,また「デジタル田園都市国家構想」の下多くのスマートシティの取組みが進んでいるが,その多くがデータ連携を前提としたものとなっている.

2.ディジタルツインによるスマートシティのデータ駆動形アプローチ

 近年のデータ駆動形スマートシティの進展には,コンピュータや各種センサの高性能化,ネットワークの大容量化・高速化などの科学技術の進化が大きく影響している.従来は,都市計画における手動カウンタによる交通流調査や,災害時における防災担当者による河川水位の確認といったアナログ的な手法が主であった.これに対し,近年はカメラ画像による断面交通量解析や携帯電話の位置情報を活用した人流解析,また河川の水位センサや衛星画像を活用した水害状況の把握など,ICTの活用により俯瞰的かつリアルタイムでの状況認識が可能となってきた.

 これをICTシステムの側面から見ると,データ駆動形スマートシティは「Cyber Physical System(CPS)」そのものと捉えることができる.生活の場や街角など実世界の状況や動きを反映したデータを収集,これを仮想空間内で可視化・解析して,実世界の活動を最適化するというCPSの取組みは,仮想空間上に実世界と同じ環境を双子のように再現するディジタルツインの概念とともに,様々な社会課題の解決につながっている.

 ディジタルツインのスマートシティへの適用における利点は,様々なデータから「都市活動」の状況を俯瞰的・包括的に認識し,更にサイバー空間でのシミュレーション結果から将来起こるであろう状況の変化を予測,科学的根拠に基づく意思決定ができることだろう.ここで重要となるのが,仮想空間としてのディジタルツインと人とをいかにインタラクティブに協調させるかという点である.スマートシティでは,意思決定を行うのも,またその結果を実世界にフィードバックして行動誘発につなげる対象も人が中心となる.特に防災やセーフティなどの危機管理に関わる領域では,緊急を要する状況下で,同時並行で活動する人や組織が情報共有により状況認識を共有することが被害の最小化や早期の復旧・復興に大きく影響する.この状況認識,すなわち“SA: Situation Awareness”という概念にフォーカスし,理論的なモデルを提唱したのがEndsley(1)である.


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