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ICTによる農業のスマート化
小特集 4.
再生可能な都市農業
Regenerative Urban Farming
Abstract
エネルギーや食糧安全保障,自給率の向上など持続可能な社会の実現のためには都市も作物栽培をしながら農業を通じて新しい機能を都市に付加することが求められている.大都市にまとまった農地を確保して集約的農業を行うことは現実的ではなく,むしろ効率的な超分散型精密農業形態が有効である.大都市での農業生産を様々な角度から捉え直し,都市に集まる人,物,金,資源などを可能な限り運ばずに都市内で地産地消し,それを多様な人々が多様な形で農業生産に結び付けることをシステムとして開発することを目指している.
キーワード:都市農業,スマート農業,農福連携,食糧自給率
日本の食糧自給率は令和5年度のデータではカロリーベースで38%,生産額ベースで58%,基幹的農業従事者の平均年齢は68.7歳(令和5年農林水産省発表データ)である.現在の農業は自立した形では存在できず,唯一の自給率100%を誇る米においても令和の米騒動と言われるほど供給が追い付いていない.外食産業の多様化や訪日外国人の増加にも対応する必要があり,農業生産を向上させることは待ったなしの実情がある.生産することや担い手を育成することでも都市農業は必要な要素になる.
更に,都市農業が注目されている背景には複数の理由がある.上述したように食糧の確保の面から見ると,日本の食糧自給率の向上や安全保障が重要な要素となる.また,友好国からの食糧供給に頼ることは可能であるが,非友好国からの輸入が停止すると,食糧不足や農業資材不足に陥るリスクがある.このような状況を考慮すると,都市での食糧生産の必要性が浮き彫りになる.更には人口減少の予想によると都市部においても空き地や空き家が増加し,防災や防犯の面でも有効なスペースの活用が叫ばれており,施設栽培や農産物を中心とした市場の開催による人の集まる場所の確保も重要と考えられる.加えて,健康寿命の延長や福祉との融合,農作業の精神的な癒やし,更には生活の質の向上といった側面からも,都市での農業体験が注目を集めている.都市で生活しながらも,農業に触れることで心を満たす体験が求められていると考えられる.
現状では,都市から地方の農村部へ移住することは,費用面や生活スタイルの面からもハードルが高いため,食糧生産に触れるには都会で手軽に農業を体験できる施設が重要になっている.更には都市では作物栽培に関して初等教育からのアプローチがないことも農業従事者の減少に拍車をかける一因となっている.最後に,地球環境への配慮として,CO2削減や「プラネタリーバウンダリー」への配慮も重要な問題である.農業が盛んな人口の少ない地方で作った作物を,化石燃料などの持続できないエネルギーを大量に消費して都市に運ぶのではなく,需要を十分に賄えない供給量でも都市で可能な限りの農作物を作り,消費する(食べ切る)という地産地消のサイクルが,地球環境を考慮した持続可能な農業(用語)への取組みとして注目されている.究極的には,限られたスペースで限られた資源を循環させながら食糧生産を行うシステムの開発は宇宙農業のノウハウにも生かされていくようなシステム開発となることが期待できる.上述のことを踏まえると,都市農業は地方の農業と相互理解を深め,人材育成と同時に進めていくことで様々な社会課題を解決できる要素を含んでいる.
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