小特集 6. Beyond 5G時代の農業イノベーション

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ICTによる農業のスマート化

小特集 6.

Beyond 5G時代の農業イノベーション

Innovations of Agriculture in Beyond 5G Era

石津健太郎

石津健太郎 正員:シニア会員 国立研究開発法人情報通信研究機構Beyond 5G研究開発推進ユニット

Kentaro ISHIZU, Senior Member (Beyond 5G Research and Development Promotion Unit, National Institute of Information and Communications Technology, Koganei-shi, 184-8795 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.2 pp.176-181 2025年2月

©2025 電子情報通信学会

Abstract

 10年後の農業にはどのようなイノベーションがもたらされるのだろうか? Beyond 5Gは単に通信性能を向上させた移動通信システムではなく,産業を超えてシステムをつなぐオープンプラットホームとしての役割がある.本稿では,農業の特殊性に起因する課題と期待を整理し,産業間オーケストレーションやサイバーフィジカルシステムにより実現される新しい農業サプライチェーンの在り方についてケーススタディを行い,Beyond 5Gが農業にもたらすイノベーションの可能性を示す.

キーワード:Beyond 5G,オーケストレーション,サイバーフィジカルシステム,産業間連携

1.は じ め に

 最先端の要素技術が社会のサービスとして使われるためには,それが単独の技術にとどまることなく,多様な分野の技術と融合し,システム化することが重要である.そのためには共通の概念に基づき,成果を集積する仕組みが求められる.私が所属する国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)でも,Beyond 5Gに向けた様々な技術を融合させてシステム化し,異業種における必ずしも情報通信に限らない産業システムと連携するためのアーキテクチャに関して研究開発を行っている(1).この社会の仕組みとも言える産業をまたぐアーキテクチャの研究開発は,単に要素技術を高度化するというものではなく,社会制度や財産の在り方にまで内容が及ぶ内容であり,私の研究チームでは,時には外部の専門家も交えながら,数年間にわたり同僚と頻繁なブレーンストーミングを行ってきた.その中でも農業については,長い人間の歴史の中で当初から営まれてきたものであり,この数十年で本格利用が始まった情報通信技術とは特徴が対極にあるため,単純な議論とはならない.

 このような中,農業に関する小特集への執筆の機会を頂いた.現時点では,Beyond 5G技術と農業の連携に関して具体的に構築したシステムに基づき議論できる段階ではないが,これを機会に我々の考えの一端を御紹介したい.将来の農業に向けた研究開発について,皆様と議論するきっかけになれば幸いである.

2.農業への期待

2.1 なぜ今,農業なのか

 日本をはじめとする先進国では,農業においても,高齢化に伴う労働力不足や過疎化に起因した生産,運送,加工,小売に至るサプライチェーンの不安定さが社会課題となっている.農業の事業形態が自営から企業に変化することによる労働力の活用方法や,自給率低下に伴う海外情勢の影響も,農業を取り巻く社会課題である.自然環境においては,温暖化による予測困難な天候や洪水などの災害発生が,収穫量や品質の安定性に影響を与える.

 食品は人間生活に直接必要不可欠なものであり,豊かな生き方(well-being)の源泉である.更に近年は健康意識の高まりにより食品に対する期待は高まるばかりである.

 農業以外の産業においてもそれぞれ高度化されていく様々な産業システムを,農業の中で組み合わせて使っていけば,農業に進化をもたらし,このwell-being社会の実現へ貢献することはできるのではないだろうか.


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