解説 ダイヤモンド量子センサの可能性

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 解説 

ダイヤモンド量子センサの可能性

Potential of Diamond Quantum Sensors

波多野睦子 岩﨑孝之 波多野雄治 関口直太 関口武治

波多野睦子 東京科学大学工学院電気電子系

岩﨑孝之 東京科学大学工学院電気電子系

波多野雄治 正員 東京科学大学工学院電気電子系

関口直太 東京科学大学工学院電気電子系

関口武治 東京科学大学工学院電気電子系

Mutsuko HATANO, Takayuki IWASAKI, Naota SEKIGUCHI, Takeharu SEKIGUCHI, Nonmembers, and Yuji HATANO, Member (School of Engineering, Institute of Science Tokyo, Tokyo, 152-8552 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.8 No.3 pp.249-258 2025年3月

©2025 電子情報通信学会

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 ダイヤモンド中の窒素―空孔複合欠陥であるNVセンタは,常温大気中で動作する固体量子センサとして,磁界・温度・電界等を高感度に検出可能である.NVセンタは原子スケールの構造であるが,化学気相成長(CVD)やイオン注入等により,計測対象に最適な密度をスケーラブルに実現可能であること,素材自身が堅ろうで生体親和性に優れること,物理変数をマイクロ波の周波数として読み出せるため絶対精度と広いダイナミックレンジを得られること等の特徴がある.これらの特徴を生かしたEV電池計測,パワーデバイス内部の計測,生体計測に関して概説する.

キーワード:ダイヤモンド,NVセンタ,量子センサ,CVD,イオン注入

1.ダイヤモンド中のスピン量子ビットNVセンタ

 超スマート社会において,生体情報やエネルギー消費の精密な情報を収集することで,SDGsやWell beingに貢献する可能性がある量子センサへの期待が高まっている.量子センサは,量子化されたエネルギー,重ね合わせ状態,量子もつれ状態などを用いることにより高感度を実現する.量子磁気センサに関しては,1960年代に発明された超伝導量子干渉計(SQUID)は,mathmath前後の高感度を早くから実現し脳磁計測等の医用応用が確立しているが,低温環境を必要とする.2000年前後に開発された光ポンピング磁気センサ(OPM: Optical Pumping Magnetometry)は,SERF(Spin Exchange Relaxation Free)効果により,高感度を実現している(1).一方,NVセンタを用いたダイヤモンド(以下ダイヤと表記)量子センサも,室温でSQUID並みの感度を有することが予測され(2),注目を集めている.その特徴をこれらのセンサと比較して表1に示す.現状はmath前後(3)(5)であり,高感度化が課題である.しかし,数十mT以上までの広いダイナミックレンジを有することは,実社会での応用上重要な特徴である.また,大気中,酸・アルカリなどの液中,高磁界下でも動作し,極低温から1,000Kに及ぶ動作温度範囲(6),(7),堅ろうかつ生体親和性の良い固体であり,チップ化や集積化に適している.更に,結晶方位を利用したベクトル計測・イメージングが可能なこと,原子スケールの構造でありナノメートルからミリメートル以上までスケーラブルな計測対象に最適な構造を実現可能なこと,磁界だけでなく温度・電界・圧力・pH等も検出可能という特徴を有する.特に温度と磁界の同時計測は,エネルギーと情報の同時計測に対応するため,生体モニタやエネルギーデバイスのモニタに有効である.このため,固体物性(8)からたん白質(9)・細菌(10)・神経信号(11)まで広汎な応用研究が行われている.本稿後半では,特に広いダイナミックレンジと広い動作温度範囲の特徴を生かした電気自動車(EV)用高精度電流計測,ナノスケールのベクトルイメージングの特徴を生かしたパワーデバイス内電界計測,生体親和性と高感度ベクトルイメージングの特徴を生かした小動物心磁計測に関して報告する.前半では,ダイヤモンド量子センサがこれらの特徴を備える理由となっている基本構造を紹介した後,計測方法として量子計測技術,材料として量子材料技術を説明する.


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